21世紀に求められるデザインの新しいスキル(が見えてきた気がする):日本の工芸を元気にする!

公開日: 2017年5月30日火曜日 デザイン ビジネス

麻の小物などで知られている、中川政七商店の取組みが書かれている本を今回紹介します。伝統工芸や地域産業とデザインとの関わりは実は多くありますが、その中で中川政七商店は、現代の日本の中でデザインを積極的に活用し、1つのブランドとして認知されている代表例だと思います。本書は分類的には経済やビジネスだと思うのですが、このカテゴリには珍しく、デザイナーが実にたくさん関わっていました。



日本の工芸を元気にする!
中川 政七
東洋経済新報社 2017.02


デザイン業界の人であればよく知られているデザイナー達が本書に多く登場します。前回書いた鈴木啓太さんや水野学さんの名前もあります。


・水野学(good design company)
・山口信博(折形デザイン研究所)
・緒方 慎一郎(SIMPLICITY)
・小泉誠(Koizumi stadio/こいずみ道具店)
・鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER)
・片山正通(WonderWall)
・吉村靖考(吉村靖孝建築設計)


上に出てきた人はみんな独立して自分の会社を持ち、クライアントと仕事をしています。著者の中川さんは、始めはロゴの立て直しや店舗設計など、物理的なデザインを依頼していましたが、その後も長い付き合いが続き、特に水野さんに至っては経営の深いところにも入っていているようです。21世紀の伝統産業におけるデザイナーの関わり方を実際のビジネス現場を通して捉えることによって、この本の中からは大きく2つの新しいデザイナーに求められることの気づきが得られました。

1.デザイナーの経営視点


水野さんにデザイン(ロゴ)を依頼したとき、提案された内容はロゴそのものだけではなくて、経営のことに踏み込んでくるものだったそうです。例えばそれは俯瞰して会社や経営を見たときに、歴史を持っているブランドから見直して、その価値を活かしていくための戦略として捉えてロゴを考える、というアプローチです。始めはその提案に戸惑う人もいるかとは思いますが、化粧的な対応での提案と比べたとき、どちらがより親身に深く考えてくれているかは明らかです。

一方で、経営のリテラシーを持つデザイナーを選ぶことの大事さを著者は述べています。商業デザインの良し悪しは売れ行きや顧客の反応が何よりも大事ですが、それを「売れるかは自分の範囲ではない」と線引きしてしまうデザイナーもいます。そうすると経営側は「これでは同じ舟には乗れない」と感じてしまい、より深いレベルで信頼しあうことはできなくなります。確かにデザイナーの中でも(かなり多くの)このような立ち位置を取るデザイナーは多い様に感じますが、デザイナーもビジネス視点を持ち、そこにコミットする姿勢で取り組む必要性があることを再認識しました。

2.デザイナーのネットワーク力


本書の中ではデザイナーが知り合いのデザイナーを紹介するシーンが何度も出てきます。それによってよい効果を生み出し成功につながっているという内容です。何気なく書かれているのですが、僕はここにすごい強みや可能性を感じています。というのも最近、僕の周りで、すごいデザイナーがすごいデザイナー(あるいはクリエイティブ系に関わる人)を紹介してすごい魅力的な成果にしていく、という実例をいくつも見てきており、ネットワーク力そのものがデザイナーが持っている1つのスキルであると言えるのではないかと思いました。

それがなぜかというと理由は2つあって、1つはデザインの領域は非常に幅広く1人で全部に精通することは不可能だから(例えば建築とWebデザインの距離感)お互いを尊敬しあいながら取り組むチームワークが欠かせないから。そしてもう1つがより大きいと考えますが、デザイナー同士は、お互いを信頼して尊敬できる相手でないとつながったり紹介し合えるような関係にならないからです。つまり、その人のスキル・考え方・人間性が認められないとネットワークに加わることができないという、ある意味とても高い壁が存在する世界だからです。

なのでデザイナーが人やプロジェクトを紹介するという行為は、その人にとっては自分の中の数少ない選択肢の提供だったとしても、その人でなければできない、かつ実力や信頼性のお墨付きがある、とても価値の高い提供であると考えられます。なので、これからのデザイナーは紹介しあえたり一緒に取組んでくれるネットワークをつくっておくことはとても大事なことではないかと考えます。



経営視点やネットワーク力というのは、デザイナーのスキルに関してあまり表には出てこない話題だと思いますが、この本を読んで大事だなと思うようになりました。特にデザインストラテジーという取組みで考えるとき、構想だけではなく実行につなげるためには、デザイナーが持つスキルを最大限に活かしきる戦略を立てることが重要になります。このブログで経営視点のことは(実践経験は少ないけれど)知識を徐々に蓄積していけてるかとは思いますが、ネットワーク力は本を読んでも築くことはできないので、もっと外にでないといけないし、何よりもまず相手に認められる実績を重ねていかないとな~と思いました。
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