デザインシンキング再考と「機会」という考え方:機会発見

公開日: 2017年1月9日月曜日 デザイン マーケティング メソッド

最近の感想ですが…デザインシンキングの普及によってアイデア創造ワークショップやハッカソン等の取組みが増えてきたことで、「ワークショップ疲れ」を口にする人がここ最近すごく多く聞きます。僕自身も正直なところ、うんざりする気持ちになることはよくあったりします。誤解ないように説明すると、デザインシンキングが悪いわけではないと思うんです。ただワークショップのプログラムの取組みに対して「本当にこのやり方が効果的なんだろうか?」と思うことが多く、アウトプットがいまいちだったり先に進められないような状況が、実際たくさん起こっていると感じます。

この本は、そんな状況を打破する強力なナレッジが集約されています。上に書いたような状況に悩んでいる人にとっては必読書だと思います。ぜひ一度読んでみてください。


機会発見 生活者起点で市場をつくる
岩嵜博論 英治出版
2016年9月

実は著者の岩嵜さんとは2度ほどお会いしてお話ししたことがあります。岩嵜さんはもともとは社会学を先行し、その次に建築分野に進んだ後、博報堂に入社し、途中にアメリカのデザインスクールの名門校・イリノイ工科大学で学んだという経歴だそうで、それぞれ違う分野から捉えた考えかたを凝縮されたものが本書に込められています。ご本人の雰囲気を反映してか(2度しかあったことはありませんが)、機会発見の考えや取り組み方の説明を、静かに丁寧に説明されている印象があります。ビジュアルが派手なわけではないので一見パッと目にひくようなものではありませんが、内容をしっかり読んでいくと「まさにこれだ!」「そういうことだったんだ!」といった、目から鱗の内容が満載で、読みながら熱く興奮したのをよく覚えています。

考え方のプロセスはこのようになっています。でここの1〜5はd.schoolでいうところの最初の2つ、Empathise と Define にあたるということです。

1.課題リフレーミング
2. 定性調査
3. 情報の共有と整理
4. 機会フレーミング
5. 機会コミュニケーション

まず「機会発見」とは何かというと、「機会発見は枠外の視点を探索して、統合・構造化によって新しい市場の可能性を創出する」とあります。この機会発見アプローチと対比して取り上げられているのが分析的アプローチで、いわゆる既にある問題を分析・分解して優先順位づけをする従来の限定的なマーケティング手法やロジカルシンキングがこれにあたります。これだけ書くと「デザインシンキングと何が違うの?」という疑問がわきそうですが、それを体系的に整理して説明されているのが本書のすごいところです。

例として取り上げられているのがノンアルコールビールですが、これをただの「変わったアイデア」ではなくて、「ビールの気分で飲めるノンアルコール飲料」という機会領域に位置付けることで、今まで対象としてこなかったターゲットや市場を開拓できる、という視点を持つことができるようになります。これはすごく大事なことで、ワークショップで陥る問題の多くがここにあるんじゃないかと思います。本書ではそれをすごくわかりやすく、機会発見の取組を『発想のジャンプ台』と例えています。「ジャンプ台がないと発想のレベルは低く方向感もバラバラ」(これって駄目なワークショッププログラムをよく表していると思います)、それに対して「機会というジャンプ台があれば高いレベルと定まった方向感を兼ね備えた発想が可能になる」と述べています。この例えを見たとき、今まで自分の中に感じていたモヤモヤが晴れました。「こういうことだったんだ!」と。



機会領域という考え方については、ビジネスデザイナーの濱口さん(monogoto代表)がよく講演で言っている「アイデアを見るのではなくそのアイデアが出てきた背景に着目することが大事」という考えにも通じると思います。また欧米のデザイン会社の取組でもこのような機会発見(英語にするとOpprtunity Area/ Opportunity Spaceと言うらしい)という言葉はよく使っているようであり、自分を含めてついアイデアの面白さに着目しがちなデザイナーにとってもよく理解しておくべき概念だと思いました。

そしてこの機会領域の取組みはスタンフォード大学のd.schoolが提唱しているデザインシンキングのプロセスのうち前2つ「Empathize」と「Define」をより具体化した内容だというように、取組みの位置づけを整理してかつ具体的な方法論が述べられています。詳細は、ぜひ本書を読んで理解を深めていただき、実践してほしいと思います(僕も読むだけでなく活用していこうと思っています)。

繰り返しになりますが、デザインシンキングの取組みに悩みや限界を感じている人にとっては必読の本だと思いますので、ぜひ読んでみてください(まわしものではありません)

機会発見――生活者起点で市場をつくる
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