社会性+経済合理性+創造性=ビジネス:ビジネスモデル2.0図鑑

公開日: 2018年12月30日日曜日 ソーシャル デザイン ビジネス メソッド

デザインとビジネスの間をつなぐことを目的に、2017年から意識的に色々なビジネス書の本を読んできましたが、デザインがバックグラウンドの自分にとっては難しい本もたくさんありました。こういった心境はデザイナーでなくても同じように感じている人がいると思いますが、そんな人にとってこの本はビジネスに歩み寄るための一冊としておススメできる本です。

ビジネス出身の人にとってデザイン思考がデザインのことを知る最良な方法だとすると、ビジネスを図解で理解するこのアプローチはビジネス出身以外の人がビジネスのことを知る最良な方法だといえます。



ビジネスモデル2.0図鑑
近藤哲朗
KADOKAWA 2018.09

実はこの本は、僕もメンバーの1人として微力ながら関わらせていただいた本です。本書の100事例の中のいくつかを担当して図解しています。(もちろん内容の精査や編集やそもそもの構成や考え方は著者によるもので、そのうえで取り組んだ範囲です)

本書は、図を見てビジネスモデルのことを理解したり人に伝えられるようになることに加えて、自分で図解してみることで考えを整理したりアイデアを広げたりができることを目的としています。なので携わった一人として、ここでは実践的に図解をしてみるときのコツをいくつか書きまとめてみようと思います。


まず基本の考えはSBC

ここの内容に入る前に全体の考え方を先に書いておくと、これからのビジネスモデルで大切なことは

S(Social)=社会性
B(Business)=経済合理性
C(Creative)=創造性

の3つが必要だということです。これまで一般的なイメージではBはもちろんですが、SやCが注目されることはあまりなかったと思います。

S=社会性については、例えば新しくて人気の商品があったとしても、もしそれが深刻な環境問題を引き起こしていて、そのことが世の中に知られると人々はその商品を買わなくなって、結果的にビジネスを継続していくことが難しくなるでしょう。C=創造性については、例えば他と同じような商品だと価格競争に陥ったりして、そうするとこれも結果的にビジネスを継続していくことが難しくなります。

というように、B=経済合理性だけでなSとCのもビジネスをしていくうえでは欠かせない要素だといえます。特にこれからの購買ユーザーであるミレニアル世代やZ世代といわれる人達は、社会とのつながりに対しての感度が高く、安さや所有欲よりもストーリーや体験の方に共感があつまる傾向が強いので、より重要になるということができます。

ここまでが前提です。では次に、SBCついて考え方のコツを紹介します。

下の手書きは、本書の中ですでに図解されているのを一枚にまとめただけのものなのですが、まあ見取り図的に使っていただければと。





C=創造性:逆説の捉え方を

創造性が表れているかどうかは、図にある『起点』→『定説』→『逆説』の流れで、いかにその業界や習慣などが世の中の一般的な認識と異なっているかで整理して考えます。本書の例では、フレンチが座ってゆっくり食べるものだったのを立って食べることにした、というのが逆説です。

これだけ書くとそのまんまですが、大事なのは逆説であってもビジネスがどう成り立つかをつなぐことです。ここが本当の意味での創造性であってビジネスモデルがユニークになれる点です。フレンチの例でいうと、立って食べることでお客さんの回転率が上がるので他の店よりも値段を安く美味しい料理を提供できる、なのでビジネスが成り立つ仕組みが機能してます。(お店側は収益性が確保できるし、お客さん側は安くて美味しいので食べにいきたくなる)

この仕組みが見つかれば創造的なビジネスモデルが考えられるし、どんなに逆説が面白くても実現方法が描けなければビジネスにすることはできません。なので、実際に考えるときは一方向の流れだけでなく、仕組みが生きるための逆説は何か?とか、逆説がユニークだと思える定説って何か?とか、いろいろと行き来しながら考えていくのがコツです。対象ユーザーを変えたのが定説と逆説の差なのか、見る場所が参加できる場所になったことが定説と逆説の差なのか、など。実際に100の事例をつくっていった中では、この内容だと特徴が出ていないから定説を見直した方がいい、といった検討はよくありました。


S=社会性:いろんな関係者の視点で考える

有名な言葉で『三方よし』という考え方がありますが、ここではより具体的にどんな人や場が関わるのかを8つから捉えた『八方よし』をあげています。この『八方よし』の考え方は鎌倉投信の創業者の方が提唱されている考え方です。ここの社会性では、8つの視点から見たときに何か問題を引き起こしていたり、誰かが不利益を受けていないか、といったことをチェックするためのものとして使われます。

100事例を進めていくうえで選考外になったものはいくつかあって、その商品やサービスが優れていると考えていたけど、ビジネスの裏側を見たりニュースを注意深く調べていくと、ネガティブな情報が見つかることはあり、必ずしも多角的な観点から見たときにいいとは言えないということが分かりました。もちろん8視点すべてにおいて完璧だといえるビジネスモデルは簡単なことではないので、ここではネガティブチェックのツールとしての使い方が現実的です。

世の中にある事例を調べていくうえでは、ニュースの記事、同業の中での位置づけ、他の立場などから見たときの視点などから問題となりうる要素がないかを調べていきます。自分でビジネスモデルを考えていくときには、8つの視点それぞれで捉えたときに何かしわ寄せになることがないかということから考えていくことで、社会的に必要とされていて結果的に事業が継続していけるための仕組みが考えられるようになります。


B=経済合理性:要点を絞ってシンプルに伝える

最後にこの本のメインであるビジネスモデルの図解です。この図解の構成は3x3となっていますが、見方は大きく2つです。まず縦は3つに分かれていて、上が利用者、真ん中が事業、下が事業者となっています。そして横は真ん中にあるのがメインのビジネスの仕組み、両脇はメインを支える関係した仕組みを表しています。そういった整理の中でビジネスに関係するものを3x3に並べて(9つなくてもいい)最後に関係性を矢印でつないで、吹き出しコメントで補足をする、というのが図の構造です。

なぜ、このような図になったか。実ははじめは3x3でなくて9以上のものが並んでいたものもありました。ですが事例を増やしていくにあたって、同じルールにした方が事例同士を並べて見比べることができる(例えば同じようなビジネスでも何が違っているのか分析や検証がしやすい)し、見る人にとっても分かりやすいということから今のような構成になっています。3x3にすることで入れられない要素は出てきますが、この図解は、分かりにくかったビジネスモデルというものを分かりやすくすることが目的の1つなので、情報を量を絞ることで、特徴がより強く出ていることを重視しています。

なのでこれが全てにおいて万能な図解なわけではありません。例えば、この図解の方法には時間軸を表現しきれていないので(いくつかの事例は数字をつけて流れを示していますが)、購入前と購入後の時間の流れで商品やサービスの価値を説明するといったことには少し苦手な面があります。

例えば具体的なサービスの仕組みを考えるならば、デザイナーが得意なジャーニーマップやブループリントなどを用いるがよいという考え方もあります。これは優劣の話ではなく適正さの話です。ジャーニーマップはユーザーとサービサーの関係を細かく見るのには適しているけど、そもそもどんな関係者が出てくるのか(協力会社、使うモノ、情報の流れ...)ということをジャーニーマップで描くと複雑になってしまいます。この本での図解のキッカケは「あのビジネスモデルってどうなっているんだろう?」という全体像が見えていないものを分かりやすく伝えることなので、適材適所で使ってもらえるのがよいと思います。

そして図解をつくるときのコツを紹介します、まずはじめに縦3つを置いてみましょう。多くの場合は上がユーザー・真ん中が商品/サービス・下がそれを提供している会社、になります。それができたら次に中央の列で商品/サービスを補うものをあててみましょう。この列はC=創造性のところで出た逆説が強く表れるので、それに関連するものを考えてみましょう。もし置いてみたものや矢印でつないだ内容に特徴が出ないようだったら逆説の捉え方が十分ではない可能性があるので、その場合はC=創造性から考え直してみる方がいいかもしれません。

関連するものをうまくつなぐのは、やってみるとなかなか難しいです。(特にメインのものが真ん中に縦3つあるので、紙の両端をつないで円筒にして矢印をつなげたい思いにかられた人はきっと多いはず)ですがもちろんそれをやると人に伝えにくくなるので、あくまでこの制約の中でがんばってみましょう。はじめは難しいと思っていても数を重ねていくと、だんだんコツをつかめるようにります。

図解のやり方に1つの正解があるわけではないので、どうすればよりこのビジネスモデルの特徴がシンプルに伝わるだろう、ということを考えながら試行錯誤してみることで、きっとよい表現方法が見つかっていきます。

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以上がそれぞれ考え方とコツの紹介でした。この本は、僕のようにビジネスモデルを学ぶための入り口として、世の中の実際にあるビジネスモデルの面白さに知るだけでも十分ですが、さらに上に書いたようなコツをもとに実際に考えたり書いてみることによって、自分でビジネスモデルを考えられるようになれる、ということがより大きな魅力だといえます。僕もメンバーの1人としてこの本の制作に関われたことによって、たくさんのことを学びましたし、よりビジネスをデザインするという考え方ができるようになりました。本書の対象者は幅広いですが、もしデザイナーでビジネスに興味にあるという人がいましたら、僕はこの一冊を強くおススメします。ぜひ一緒にビジネスをデザインすることを学び実践してきましょう。

今年も一年、いい勉強ができました。
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