21世紀の(ゆる系)柳宗理?:クリエイティブナイト・鈴木啓太

公開日: 2017年5月28日日曜日 クリエイティブ デザイン ヒト

僕はもともとプロダクトデザイナーですが、時代の流れとか関心どころの変化とかに影響を受けて、いつの間にかリサーチやストラテジーの方に来てしまいました。ですが、今回トークイベントを聞きにいった鈴木啓太さんは、プロダクトデザイン一筋の人です。富士山グラスが有名ですが、最近では鉄道車両にも拘わっています。


クリエイティブナイト・鈴木啓太
8 branding主催 2017.05


このイベントは当日、知人に勧められて駆け込んでどんな内容か事前知識なしでいったのですが、予想を超えたとっても面白い内容でした。それは、鈴木さんのお話し(ゆる~い感じです)が、いわゆるデザイナーの作品紹介ではなく、普段どんな風に仕事をしているかという内容だったからです。スライドも事務所の風景などをたくさん見せてもらいました。特に同業の人にとってはこういったことを共有してもらえるのは本当にありがたいですし、興味深いです。

鈴木さんは(最近では珍しく?)徹底して、必ず立体をつくって、かつできる限り原寸で確認しながらデザインをしています。鉄道車両でもドア部分はベニヤ板を事務所に置いてテープで最適な角Rを検証していました。一方、3Dプリンタ等の技術も積極的に活用していますが、CADの画面では大きさの感覚がつかめない、例えば1cmくらいの小さいパーツでも画面上では巨大になってしまうので、最終的なCADデータ作成は、その前にモノをつくってから行うという、というようにリアルな感覚をとても重視していて、何となく工業デザインの巨匠、柳宗理の思想を柔らかく体現したかような印象を受けました。(信念はあるけど物腰が低くて柔軟な考えを持っているようだったので)

僕も鈴木さんほどではないですが、学生のときに柳宗理の影響を受けたこととと、恩師から立体物をつくる大切さを教えられたともあり、学校の課題では必ず自分の手で立体をつくっていました。仕事を始めたときはユニバーサルデザインに注目が集まっていたこともあり、自分の手でつくって確かめるプロセスを実践できたことは、とても自身の学びにもなりました。ですが、実はデザイナー自身が手でつくりながら確かめることは最近では少なく(たぶん大きい会社ほど)。モックアップをつくる会社にCADデータを渡すだけという状況が一般になっています。鈴木さんの仕事をみて、改めてリアル感覚の大切さを再認識しました。

鈴木さんが考える『リサーチ』というのも興味深いです。たくさんモノを集めたり(事務所にはモノがあふれてる)現地にいって製造方法を発見したり、足で見つけるリサーチをしています。デザイナーが使うリサーチという言葉は人によって捉え方が全然違うことがとても面白いです。


あと自身の範囲はプロダクトに絞って、ロゴやカタログといったのデザインはやらないそうです。理由は、自分よりもグラフィックがうまい人はいるので、必要なときはそういった人たちとチームを組んで取り組むから、ということです。実際に鈴木さんはグラフィックデザイナーの水野学さんと仕事をすることが多く、別の投稿でも書きましたが、改めてデザイナーのネットワーク力というのが、大切になってきていることを実感しました。

そういったスタンスを持つ背景にあるのは、鈴木さんはモノをつくるのがとにかく好きだから、という純粋な気持ちからきているようです。特に作家性とか自身のデザインテーマはない、ということです。鈴木さんは学校でも教えているそうなのですが、最近の学生はデザインをあまり楽しそうにやっていないと感じるそうです。確かに今のプロダクトデザイン業界は全体的に閉塞感がある感じがあり(やたら理屈を求められたりする)、社会の要求が強くてバランスがとりにくい時代なのかもと思いました。

今はデザイナーでも話術を巧みに操りスピーチする人が多いですが、鈴木さんは美大出身らしくそういう感じではなく、質問に対しても「何なんでしょうね~、分からないですね~」とたくさん言っていて、オーディエンスが心配になるくらいでしたが(それが面白かったですが)デザインってそういうものでもあるよな~とも思うので、何でも論理的に語れることだけがいいというわけじゃないんだよな、と思いました。(失礼な感じの文章ですが、褒めているんです)

このブログは全般的に固い感じなので、もっと楽しむことを忘れないようにしないと。
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