LIFE SHIFTの思考を解剖してみた:LIFE SHIFT

公開日: 2017年9月30日土曜日 ソーシャル メソッド

前に紹介したWORK SHIFTに引き続き、今回も大ヒット書籍となったLIFE SHIFTを取り上げます。が、いつもと違い、ここでは本の内容の感想文は書きません。僕がこの著者に対して興味を持っているのは『どのような思考プロセスでこのような考察にたどり着き、高い説得力を持つことに成功しているのか?』というプロセスです。WORK SHIFTとの共通点や違いなども比較しながら、解剖するような感じでこの本を構造化して捉えることを試みます。



LIFE SHIFT
リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット、池村 千秋(訳)
東洋経済 2016.10

①リサーチと分析
WORK SHIFTでは社会変化の兆しとなる5カテゴリ、32のドライビングフォースをもとにして6つのストーリーを組み立てるという、シナリオプランニング的なアプローチが見られました。それに対して今回はキーとなるドライビングフォースはたったの1つ『長寿』に絞っています。すごい明確。で、それに対してこれまでのロールモデルであった3ステージ(教育→仕事→引退)の期間と内容が変わってくる、というとてもシンプルな構造とロジックです。もちろんこの裏には、仕事環境の変化や女性の活躍など、いろいろなドライビングフォースの検討はしているものと思いますが、それらをすべて集約して包括するカタチで1つの長寿にまとめたことで、よりシンプルでメッセージが発信できています。この力強い理論の組立て方には大いに学ぶところがあります。

②未来シナリオ
3人の人物像を設定し、それぞれ異なるシナリオを紹介していますが、WORK SHIFTのような良い未来/悪い未来という対比の表現ではなく、まずはじめに普通に暮らしているとこうなるという現状で想定される未来を示し、その未来を生き抜くためのスキルや心がけを踏まえたうえで、どのように年齢を重ねていくべきかというロールモデルを紹介しています。これもまずはじめに現状に近いところで納得性を持たせたうえで、読み手に何が必要になるかというメッセージを段階的に出していくことで、読者がついていきやすい内容にしているのではないかと思います。さらに3人の設定の違いが時代という点だけにフォーカスしていることも、比較がしやすく読み方が分かりやすいです。

③アクションプランと施策の提案
WORK SHIFTでは未来シナリオが中心の説明だったので、そうなった数年後の時代を生き抜くための提言については少し弱かったような印象がありました。それに対して今作は提言の方が多くのボリュームを占めています。目次をみても、全10章のうちリサーチ・分析やシナリオの説明は3章ほど、提言がそれ以外の7章という構成になっています。各施策はそれぞれに章立てがされており、それを具体的に掘り下げていることで、3人の人生それぞれに対して何が必要とされているかといった紐づけが意識できるようになっています。最後の章では個人から政府単位までそれぞれに課題の提言をしており、アクションプランに対してもかなり具体的で丁寧です。

このようにWORK SHIFTとの違いは各所に見られましたが、全体構成については同じようなアプローチが採られているかなと思います。ただし、じゃあこれがシナリオプランニングの手法に基づいているかというと、ずいぶん違うような気がします。おそらくは独自のメソッドを構築できているのではないのでしょうか?論文とか出ているのかな?あるなら読んでみたい気もするけれど、社会学の伝え方ってあまり図を使わずに言葉で説明する傾向があるので、文章読解力が備わっていないと難しそうだな...。

以上が全体のプロセスに対する僕なりの読み方ですが、それを図にすると下のような感じでまとめられるかと思います。


他の国ではどのような反響があるかは知りませんが、日本では政府や企業から引っ張りダコで、いくつかの政策のアドバイザーやボードメンバーとして関わっているようです。その理由に論点の鋭さはもちろんあると思うけど、加えて伝え方の明確さが強く影響している結果ではないかなと思います。実際に彼女のプレゼンテーションを昨年聞きましたが(日本で)やっぱり主張が明確で、英語であってもとても分かりやすかったです。論理の組み立て方に加えて、それをキャッチ―にかつ具体的で納得感のある伝え方、という点でストラテジーとしても参考になる点が多くあります。

こんな感じで解剖してみました。メモで描いた図はわりと端的に整理できているのではないかと思います。自分が組み立てるストラテジーもこのくらいシンプルで納得性と具体性のある内容になれるよう、自分の思考のベースに位置付けておきたいと思える本でした。

ちなみに同じ出版元の雑誌・習慣東洋経済でもこの前、特集が組まれていました。要点がマンガ形式などでうまくまとまっているので、どんな内容なの?を手っ取り早く知るにはこちらを見ておくのをお勧めします。




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