語りの極意はユーザー視点:伝えることから始めよう
公開日: 2018年3月27日火曜日 コミュニケーション ヒト マーケティング
戦後の日本は世界に誇るすばらしい創業者がたくさんいました。では、21世紀では誰がいるでしょうか?ユニクロの柳井正さん、ソフトバンクの孫正義さん。でも、この人を忘れてはいけません。ジャパネットたかた創業者の高田明さんです。本を手に取ったきっかけは、もちろんあの語りがどうやって培われたものなのかを知りたいためです。伝えることから始めよう
高田明
東洋経済新報社 2017.01
本書の構成は大きく2つ。前半はジャパネットたかたを始めるまでの歩みと、後半はジャパネットたかたで注目となったテレビショッピングの話術です。もちろん醍醐味は後半にあるのですが、前半の生い立ちも、とても学びになることばかりでした。
「目の前のことに一生懸命になる」
これが本書を通して一番伝えたいであろうメッセージです。それは彼自身の生い立ちが表しています。学生時代は語学に夢中だったそうです。実は英語はもとよりフランス語も流暢なんだそうです。(佐世保を拠点にビジネスしている姿からは想像できませんでした)大学卒業後は企業に勤めて20代で海外駐在をしていたそうですが、その後に会社を辞めて友人と翻訳会社を立ち上げるもうまくいかず、地元に戻って家業を手伝います。
実家はカメラ屋さんでしたが、当時はおりしも高度経済成長のながれで旅行が盛んな時代。そこに付随して旅行先での写真撮影と旅館での写真販売がビジネスになっていました。そこで彼は一生懸命になって四六時中働き売上を伸ばしていきました。もし僕が彼だったら、外国語が使えることのプライドが邪魔して、地元に帰って外国語と関係のないビジネスに身を投じることができたは自信ありません。
これが彼が実体験を通して強調している「目の前のことに一生懸命になる大切さ」です。本書では次のようにまとめられています。なかなかできることじゃありません。僕はすぐに過去や未来を頼りにして考えるクセがあるので、本当に尊敬します。
・過去に捉われない
・今を生きる
・未来に翻弄されない
後半はキャパネットたかたのお話しです。もともとテレビショッピングを始めるいきさつも、今を一生懸命にやっていた結果だということで、フィルムやビデオカメラの販売をしている流れで広告を打ち、それがラジオになりテレビになっていったという流れです。なので、よく知られている特徴的な語りも、今を一生懸命やっていったら培っていった経験の集約であるということです。理屈だけではなくすべて実体験を通してのスキルなので、重みが違います。
本書ではテクニック的なこともいろいろと紹介されていますが、特に強調しているのは
・どう伝えるかよりも何を伝えるか(伝えたいことがあるか)
・相手に伝わる話し方になっているか
という点です。本書のタイトルにも表れているように、伝えると伝わるは違うと述べています。伝える話し方というのは自分目線、私が伝えたいことを私の理解で言葉にするということです。一方で伝わる話し方というのは、相手の関心事や気持ちに合わせて、常に相手の反応を意識しながら聞き手が理解できる言葉で語ることです。これ、当たり前のようで実はできていないと思うことたくさんあります。
例えばテレビを紹介するときは、性能を語るのではなく「リビングが生まれ変わって、部屋にいた子どもが家族みんなでテレビを見るようになりますよ」と伝えます。デザイナーの文脈でいうとこれはUXです。聞き手がユーザーだったら、徹底的にユーザーの思考に立って同じ目線で語る。さらにそれをうわべで話すのではなくて、本当に自分がそう思っていることを話すこと。本心は聞き手にバレてしまうものだそうです。
ここ数年、デザイナーの対象領域がビジュアル化されないモノが増えてきて(例えばサービスデザインといわれる分野や音声入力などのUI)デザイナーが言葉を扱う重要性は以前よりも増しています。プレゼンテーションのうまさだけではなくて、伝わる言葉を使ってデザインできるか、ということがこれからのデザイナーにとって欠かせないスキルであることは間違いなさそうです。ビジュアル表現の過去にとらわれずに、言葉を扱うデザインを一生懸命に取り組んでみる価値は十二分にありそうです(僕はこのブログがある意味で実践練習の場になってます)。