デザインx経営の接点を知る:Design for Innovation 2018

公開日: 2018年10月15日月曜日 デザイン ビジネス

10月11日に行われた Design for Innovation 2018 に参加してきました。このイベントは昨年も参加したのですが、前回も今回も異なる業種の多くの著名ゲストが登壇しており、トークの全体像を通じて、デザインと社会の関係性のようなものを感じることができる内容でした。

サイトはこちら Design for Innovation 2018




全体的なレポートは公式か誰かがきっと上げてくれると思うので、ここでは個人的に新しい視点だなと感じたことを3つほど取り上げて紹介します。


イノベーションはチャネルがカギ

1つ目はTakramの田川さんがお話しされていたことです。日本の新規事業開発の取組はアイデアや企画などのところにフォーカスしがちだけど、それは産業社会(20世紀に日本が得意としてきた)の取組み方。情報社会とデジタルサービス革命の中にいるいまは、そこではなくてプラットフォームやユーザーとの接点がより大事になり、それを実現するためにはチャネルをおさせることだと言っていました。

例えばセブンイレブンやユニクロは自社店舗を持っていることから、新しいサービス(セブン銀行とかコンビニコーヒーとか)を打ち出していたり、競合や関係企業に左右されない価格設定(フリース1990円)を行うことによって、業界のカベを壊すことを行ってきました。そしてそれがオンラインでは、D2C(Direct to Customer)によって商品をユーザーに直接届けることのできるサービスだったり、Amazonやairbnbなどのウェブサイトがプラットフォームとして成り立つことで販売の流れをコントロールする、といったようにチャネル戦略が重要な成功要因になっています。

そこで、このような流れや企業文化をつくっていくためには、製造業視点からの脱却が大事になり、具体的には2つのことがあげられます。1つめは営業への依存体質を見直すこと。営業でのチャネルは仲介や他企業への関係性によって成り立つから、ここが強いほど自社でチャネルを開拓したり確保することが難しくなってしまいます。2つめはデジタルシフトすること。可能なものは数値化して活動を評価できるようにすること。イノベーションで重要と言われているデザインを経営に活かすためにどう取り入れて評価するか、ができなくなってしまうから(=単に好みとしてでしかデザインが評価されない)です。






デザインとはローカルでリサーチ

2つ目はLinkedInとStripeの2社がグローバルとローカルの取組み方についてで、内容によって使い分けることが大切という考え方です。デジタルサービスの多くはシリコンバレーのようなテクノロジー開発を本拠地に置きつつサービスをグローバルに展開していますが、本拠地でつくったものをそのまま現地にインストールすればうまくいくわけではないということを紹介してくれました。英語の自動翻訳が現地の人には一発で見破られてしまい信用度を下げてしまうなど。

例えばLinedInの日本での普及率はfacebook等のSNSと比べるとまだいまひとつですが、どうすればより普及させることができるかを考えるには現地の感覚がなければ難しい、といいます。同社は実際に本社幹部を日本に招いて、朝の満員電車に乗せて「ほら、みんなこんなにスマホ見てる、ビジネスチャンスありますよ!」ということを体感させて、サービスの改善を図っていったようです。リアルなUXを描けないと的の外れた戦略になってしまいがちになります。

このセッションで語られていたデザインの言葉はリサーチの意味を多く含んでいて(ほぼ同義のように)、リサーチからサービス向上の施策につなげられるということが、経営にデザインが必要といわれる所以でもあるかと思いました。キレイに見せてユーザーの心をつかむのはデザインの1要素で、それ以上に鋭いリサーチをできることがデザイナーに求められることではないかかと思いました。




困ったら人間に立ち返る

3つ目は大企業のデザイン組織を率いるテーマの話です。デザイン部門のトップであり本社の取締役である、ヤマハ発動機さんとコニカミノルタさんの2人を交えてのセッションでした。日本の大企業でデザイナーが取締役になっていることは大きな進歩だと思いますし、企業がそれだけデザインが経営に必要であることを理解していることの現れでもあるので、この2社はすばらしいことだと思います。

僕自身も企業内のデザイン部門にいる身として、聞きながらずっと考えていたことがありました。それは、会社の中枢に入っていけばいくほど社内政治のための仕事の割合が多くなり、デザイナーとしての立ち振る舞いやユーザー視点で実行していくことが難しくなるのでは?という問いです。でもこれに対して、登壇した2人はデザイナーとしてのマインドを120%感じさせるものでした。それは発言の端々から感じられて、自分の経験や考え抜いたことから自分の言葉として語っていました。社内政治ばかりに目が向いている人では決してできないことだと思います。

印象的だった言葉の一つがヤマハ発動機の長屋さんのコメントです。(自分なりにメモしたものを書き起こしてつなげたものなので、本人の発言そのものではないのでご了承ください)

「困ったら人間に立ち返る。素直に自分がユーザーとしてどう感じるか、どういう家庭や地域でありたいか、といったことから考えていけば間違った方向には進まない。(デザイナーが本来持っているとされる)デザイン思考の根底はこういったところにあり、方法論を使ったり調査をしなくても、見つけられることはある。」

心を打つ言葉です。おそらく社内での立ち回りは色んな苦労があるのだと思いますが、デザイン組織をリードする人としては、理論だけではなく心に働きかける言葉や態度を示せて、デザイナーであり続けていられる人がなるべきなのだと思いました。

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このイベントは全体的に数人でのセッションで、ほとんどスライドを使わずにトークが中心だったことが、個人的にはとても良かったと思います。スライドの説明だと極端な話、後で資料を見ればよかったりするけど、対話することで今の関心事とか本音を知ることができたりして、参加する意味を強く感じます。来年はどんな感じにアップデートされるのか期待です。
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