模倣困難であること:企業戦略論(上)-1
公開日: 2017年1月21日土曜日 ビジネス マーケティング メソッド
柄にもなく自分に馴染みのない難しい本を頑張って読んでみたわけですが、きっかけは早稲田大ビジネススクールの根来先生のお話しを聞いて興味をもったことでした。アイデアを考えるだけではなくビジネス化につなげていくためには経営学的な視点も必要だなと思って、たまたま機会がありセミナー的なものを受けたのですが、そこでデザイナーにとっての既成概念を壊されるような衝撃を受けてしまいました。分かりやすく対比してみるとこんな感じです。○デザイナー:
・アイデアは独自性が全て
・アイデアが良ければビジネスは成功する
○ほかの人:
・独自性よりも収益性(面白いかはそんな大事でない)
・アイデアはマネされるもの(仕組みが大事)
デザイナーって良くも悪くもピュアなんだと思います。デザイナーが他の人のアイデアをマネすることはほとんどありません。なぜなら自分の存在意義を否定するから。どこかでいいアイデアをつくれば唯一無二の価値をつくれると思ってるところがあります。でも実際の社会はマネしまくりです。低価格サービスがでたら同じような業態が1年以内で複数でますし、2番煎じの戦略を堂々と実行している大きな会社もあります。根来先生のお話しで印象的だったのが「差別化なんて当たり前、大事なのは模倣できない仕組みをつくること」ということです。その場では「模倣困難性」と「希少性」の強さを例にサウスウエスト航空の事例を分かりやすく教えてくれましたが、この「模倣困難性」という概念は今まで自分が考えたこともないくらいの価値観で、そんな背景から衝撃を受けたわけです。
企業戦略論【競争優位の構築と持続】上・基本編
Jay B. Barney 岡田正人 訳 ダイヤモンド社
2003年12月
前段が長くなりましたが、この「模倣困難性」のベースとなる考えが知りたくて探したところ、バーニー教授のVRIOフレームワークにたどり着き、本書を手に取ってみました。この本はたぶんMBAの教科書として使われているようなものなので、僕が読んでさらっと理解できるものではないことは自覚しつつ、関心のあるところを中心に読んでみました。基本編なのでまだ序の口なんだと思いますが、目次はおおまかにこうなっています。
第1章:戦略とは何か
第2章:パフォーマンスとは何か
第3章:脅威の分析
第4章:機会の分析
第5章:企業の強みと弱み
となっています。言葉でピンときた人もいるかもしれませんが、3〜5章はSWOTフレームワークがベースとなっており、第5章の強み弱み(Strength/Weakness)でVRIOフレームワークの紹介があります。ちなみに第3章ではマイケル・ポーターの5フォースが紹介されていたりするなど、各フレームワークの位置づけも理解できるのが面白いです。ちなみに僕は最近「機会」という言葉に強い興味と可能性をもっているので(機会発見を参照)、この章もいずれそのうち整理して書いておきたいと思っています。
さて、VRIOとは以下4つから構成されているフレームワークです。
1.Value(経済価値)
2.Rarity(希少性)
3.Inimitability(模倣困難性)
4.Organization(組織)
それぞれを簡単に要約すると、Valueは企業が持っている経営資源やケイパビリティ、例えば技術スキルや創造的な組織文化などを表します。Rarityはそれが稀少か、例えば土地を所有しているとか、圧倒的地位を確立しているかとかです。3はあとに飛ばして、最後のOrganizationは実現のための組織体制が整っているかどうか、悪い例としてゼロックスのパロアルト研究所は当時最新の研究技術を持っていたにも関わらず活用できなかった(つまり宝のもちぐされ状態)ということが紹介されています。
で一番の関心どころのInimitabilityについては他よりページを割いて詳しく説明がされています。一番のポイントは「実施する際にコスト上の不利になるか」ということの様です。その理由として、やるにはすごいコストがかかるから多くの企業は断念せざるをえないとか、複雑だからどう模倣すればいいかわかりにくい、といったようなことが本書では4つの観点で書かれています。
…と、この章を読んでみて、分かったような気もするけど、難しいからきっと深くは理解できていないんだろうな〜とうのが僕の感想です。でも本当に価値のある知識って、そんな簡単に手には入れられないものだと思うので、きっとこの本を本当に理解できたら、定価の何百倍も価値のある内容なんだろうなとは思いました。僕のように難しそうだなと思う方は、まず根来先生も書かれている「ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門」が分かりやすかったのでおすすめです。簡単なものを読みながら少しずつ知識を深めていきたいです。僕としては完全に理解はできなくても、セミナーで気づいた、自分の偏った価値観を一度客観的に見つめることで、製品やサービス開発にデザイナーがもっと貢献できるようになるよう、マインドセットや手法などに取り入れて行きたいと考えています。
企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続