数学でクリエイティブする力:確率思考の戦略論

公開日: 2017年1月26日木曜日 クリエイティブ ビジネス マーケティング メソッド リサーチ

デザインストラテジーとかデザインリサーチという分野を考えていくときに、ここに踏み込んでいくべきなんだろうか?と常に悩むのが『数字』です。デザインでなくマーケティング○○とかビジネス○○にすると、確実に数字を扱う必要はあります。今まで自分なりに、ユーザーテストや人間工学などで数値根拠を扱ったり、統計学を勉強しなおしたりはしてみました。でもそれを胸を張って自分の強みというほどの自信はないので、それを避けたいがために『デザイン』という都合の良い言葉で数字から逃げているような気も。。。

というようなモヤモヤを抱えながらこの本を読みました。前著「USJを劇的に変えたたった1つの考え方」を読んでとても影響を受けたので、きっとこの本にも学びとなることがあると思いました。かつ、著者の森岡さんの神髄は数学マーケティングにあるということなので、そこを知らないままでおくのはきっと勿体ないのだと思い、頑張って読んでみることにしました。


確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティング
森岡毅 今西聖貴 
KADOKAWA/角川書店
2016年5月

読んでみた結果、決して数学に明るくない人でも本書は何の抵抗もなく理解できる内容でした。専門的な内容は巻末にまとめられているので詳しい人はそっちを読めばいいけど、そうでない人は避けて通れる優しい構成になっています。

第1章 市場構造の本質
第2章 戦略の本質とは何か
第3章 戦略はどうつくるのか
第4章 数字に熱を込めろ
第5章 市場調査の本質と役割―プレファレンスを知る
第6章 需要予測の理論と実際ープレファレンスの採算性
第7章 消費者データの危険性
第8章 マーケティングを機能させる組織
巻末解説1 確率理論の導入とプレファレンスの数学的説明
巻末解説2 市場理解と予測に役立つ数学ツール
終章 2015年10月にUSJがTDLを超えた数学的論拠


僕なりに感じた本書の魅力は2つあります。1つは前著と同様に心がけや概念の定義づけによって、今後の仕事の参考になることがたくさん書かれていること。もう1つは、数式や統計学を詳しく理解できなくても、数字が持つ価値や、関係性を数字に置き換えることで予測や確率の精度を高めることで、創造的な取組みの強力な味方になるうることを知れたことです。

まず1つめについて特徴的な例を1つ。著者の2人は『市場構造を決定づけている一番重要な要素はプレファレンス(好意度)である』と明言しています。特に民生品のような数ある選択肢の中で自社のものが選ばれる要因をつくることが、他の何よりも大事であり、逆にプレファレンスが低いと他に何をしてもあまり大きな結果につながらない、ということを数学的根拠も交えて説明しています。プレファレンスはブランドの優位性であったり、価格や製品パフォーマンス(スペック)ですが、数値化することで見えてくるものがあるというのが、面白いです。よく開発現場で「もっと安く」「もっと高機能に」「高級感を与えるデザインを」なんて言葉が飛び交いますが、それら「何のため?」と考えると行きつく先はプレファレンスであり、これらをまとめて数値化で考えられるは魅力に思えました。


他にも!と思ったことは「ユーザーの範囲をあまり限定しすぎないこと」という内容です。理由は明快で、狭めれば狭めるほどその製品やサービスに接するユーザーが減るので売上につながらないからです。USJでは映画ファン限定のターゲットを見直し、家族層やアニメファンなどにまで広げたことで、伸びしろをつくったということです。ターゲットユーザーを設定するときにペルソナという手法があります。これはユーザーの顔がより親身に見えるようある1人の人物像をつくって要求や課題をリアルに描くために使われますが、あまりペルソナだけに捉われると限定することになりかねなくなります。もちろん対象となる層が広がるほどブランドマネジメントや強いメッセージを出すことは難しくなる問題もありますが、開発側が分かりやすいための手法ではなく、結果につながる手法を使わないとダメなんだよなと思いました。

もう1つの、数学は創造的な取組みの味方になるということ。新しい取組みや変化を促す取組みって、必ず不確実性が伴うものなので、失敗する確率は常についてまわることになります。で、それに対して「新しいことはやってみないと分からない」といった思い切りだけでできるほど現実は優しくなく、本書ではそれを「暗闇の中ライトをつけずに運転するようなもの」と例えています。思考停止に陥るのではなく、分析できることがあるならやってみて、少しでも成功確率を高めよう、または成功確率の高い領域を見つけて注力しようという考えです。

クリエイティブとロジカルな思考は相反するもの、という認識が強いと思います。デザインシンキングなんかでは、理詰めではなく主観や共感を重視しようという思想で、従来型のロジカルアプローチのアンチテーゼのような位置づけにも思えます。でもこの2つを両立できるんだとしたらすごいことです。そのためにはロジカル思考の人はデザインシンキングに歩み寄り、逆にデザイナーなどの人は数字に歩み寄ることで実現できるんじゃないかと思いました。(思っているだけで自分ができるかどうかは置いといて)

数学の苦手な僕でもいくつかは仕事で活用できると思える数式や数値変換による表現方法が見つかりました。ここではそれが何かは書きませんが(やってみないとわからないので)気になった方は本を読んでみてください。理論だけでなく実際に偉大な業績を残した2人が経験のもと語っている内容なので、とにかく説得力があります。
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