いまの課題感が満載:INNOVATION PATH

公開日: 2017年1月26日木曜日 デザイン メソッド リサーチ

デザインシンキングに関する本はたくさんありますが、それを使ってどうやって成果を出すかだったり事業化につなげるかといった、教育視点にとどまらず実践に視点をおいた本はあまりないように思います。で、いま現場のいろんなところで聞こえてくる『デザインシンキングをやってみたけどイノベーションを起こせない』という課題感に答えてくれる、頼れる一冊だと思います。


INNOVATION PATH 成果を出すイノベーションプロジェクトの進め方
横田幸信 
日経BP社 
2016年07月

サブタイトル(むしろメイン?)の『成果を出すイノベーションプロジェクトの進め方』がまさにそれを言い表しているし、帯の裏側にさらっと書いている『目指すべきゴールは「ゼロから1」ではなく「ゼロから1.1」』が、この本の特徴なんだと思います。
本書の構成はこのようになっています。

第1章:イノベーションの新潮流をつかめ
第2章:イノベーションを起こす人材に育つ・育てるために
第3章:既存事業とはコンセプトの異なるアイデアを生み出すには
第4章:アイデアを収束させ、品質を高めていくには
第5章:イノベーション・プロジェクトの設計とマネジメント事例
第6章:イノベーション・プロジェクトを成果で出すために


全体の状況整理から入り、アイデア発想の考え方から収束とマネジメントへと、全体を網羅した構成になっており、内容も色々なところで語られているデザインシンキングやイノベーションに関する内容を包括しているので、これ1冊読んでおけば、今起こっていることをしっかりと把握することができると思います。イノベーションのジレンマやブルーオーシャンの話や、monogotoの濱口さんが語っているメソッドの考え方、未来洞察やシナリオプランニング、または機会領域に対する考え方など、本当に1冊で広く知ることができます。

が、ただ情報を集約しただけの本ではありませんし、理論だけではなくプロジェクトとして成果を出すための実践へのアドバイスが事例を交えて書かれていることが特に大事だと思います。後半は組織としてプロジェクトを推進していくための働きかけや体制づくりの話であったり、市場との整合性を結び付けていくようなビジネス寄りの話も出てきます。本当に事業化したりサービスを立ち上げるためには、アイデア発想するだけではダメなことはわかりつつも、特にクリエイティブ側の人はやや実現化へのプロセスを軽視しがちなところがあるので(←自分のこと)業種を横断して取組む大切さを教えてくれます。



僕が本書の中で一番参考になったのは、アイデアを発想するとき、何起点で捉えて進めるかという考え方の体系化です。アイデアを生み出すためには以下4つの起点があると整理しています。

・技術起点
・市場起点
・社会起点
・人間起点


このうち、エンジニアは技術起点で考えるでしょう。一方デザイナーは人間起点で考える傾向が強いでしょう。(顧客視点に立って本当に欲しいことを見つける方法はデザインシンキングのアプローチともいえます)また、マーケッターやコンサルタントは市場や社会起点で捉える傾向があると思います。ですが、なるほどと思ったことは、取組む案件の特徴や社会状況によってアプローチの仕方は色々あるということです。最終的には4つに目を配る必要はあるのですが、そのためには自分の専門分野でやり方を決めきってしまう のは得策ではないという視点です。分かりやすい事例として自動運転が取り上げられていますが、人間起点でフィールドワークやインタビューをしてもユーザー自体がまだ体験していないんだからよくわからない、この場合は技術(あるいは社会)起点が有効ではないかという指摘です。

これはデザイン部門の人にとっては、よく理解しておくべきことだと思います。理由は上で書いたように、デザインシンキングに深く入り込んでいる人ほど、人間起点で考えがちだから。4つをうまく使いこなすことができるようになるには、自分の専門領域を閉じないで横断する視点や行動を持つことが改めて大事だなと思いました。

もしこれからデザインシンキングのことを本で理解したい人は、まず最初にこの本から読んでおいた方がいい、と推薦できる本です。デザインシンキングは万能ではない(それに対し世間では万能のように認識されているギャップがあると思います)ことを知ったうえで、デザインシンキングをどう活用し、どう付き合っていくかが理解できると思います。僕自身がまだ理解の途上ではありますが。

INNOVATION PATH イノベーションパス
  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A