いま改めてKJ法を知る:発想法
正直に告白します。僕はKJ法のことを『要素をグループ化する方法』というくらいの認識でした。先にちゃんと説明しておくと、これは最も間違った認識です。180度反対な理解の仕方です。スミマセン、KJさん(KJとは著者の名前)。ただ思い返してみると、KJ法について学校や会社で誰かから教わった記憶はないので(プリントに書いてあったかもしれないけど)僕のような状態の人は案外多いのではないかと思います。読んでみようと思ったきっかけは確か、Biotopeの佐宗さんが書かれた「21世紀のビジネスにデザインが必要な理由」の中に、デザイン思考の基本概念はKJ法で既に語られている、というようなことが紹介されており、そういえばKJ法って実はよくわかっていないよな〜と思って本を手に取ってみました。
発想法 創造性開発のために
川喜田二郎
中公新書 1967年6月
本書のタイトルが「発想法」です。KJ法の説明が主である中でのタイトルが発想法なので、ここだけでグループ化することがKJ法の目的でないことは明らかです。で、第一版が1967年!ちょうど半世紀前。こんな言葉を使うと少し歴史書物的な感じすら受けますが、確かに内容は現代でも全く通じるものです。目次はこのような構成になっています。
1. 野外科学ー現場の科学
2. 野外科学の方法と条件
3. 発想をうながすKJ法
4. 創造体験と自己変革
5. KJ法の応用とその効果
野外科学という言葉がいい感じですね。著者の川喜田さんは地理学や文化人類学などが専門分野の方ですが、本当の学問は理論や机上だけではなく経験による外の現場を重視しており、これも立派な科学に位置付けられるという意味で野外科学という言葉を使っているんだと思います。今風の言葉で書くなら、フィールドに出向き観察や体験で得られたインサイトから解決策を考える、というような視点を当時から持っていたことに驚かされます。
で、KJ法は結局何かを要約すると、その現場の気づきを集めて要素を統合しながらヒントや主題を探ること、というものなのですが、ここを正しく解釈しないと僕のように間違った認識になってしまいます。キーワードは『統合』です。統合は分析や分類ではなく、一見異質なものに関係性を見つけてまとめていくことであり、探検隊や探偵のような職種の思考です。なので、いくつかの要素を単純な言葉でまとめてしまうのは分類であって統合ではないです。本書ではブレストは素晴らしくKJ法ともほとんど同じ考えであるが、この『統合』がないという指摘をしています。僕は今日のデザインシンキングで用いられるアイデア発想がその先につながらないのは、この統合のプロセスに問題があるからではないかとすら思いますが、50年前の本にそのヒントが見つかるとは思いませんでした。
じゃあ統合とは具体的に何かということですが、本書で挙げていた俳句が分かりやすい例かと思います。575の限定された短い17文字の中に素晴らしい世界観が表現できますが、これが分類の表現だったら最小単位の内容を記号的に伝えるだけになってしまいます。なので著者はこの統合というプロセスで次のようなことに注意すべきと言っています。
・抽象化しすぎてはいけない
・堅苦しい熟語や述語にこだわってはいけない
・できるだけもとの資料の土の香りを残せ
すごく共感できます。上の様な意識がないとせっかく出たアイデアも、ただのあるカテゴリの1つに単純化されてしまい魅力がなくなってしまうのに通じます。この視点は野外科学という著者の歩んできた分野ならではの意見だと思いますし、発想力を大事とする職種の人にとって大事にしたい視点ではないでしょうか?
この視点に加えて日本人と他国の思考の違いを説明している内容もとても面白かったです。その中で日本人は有利な点が多くあるといっています。コトのデザインを考えるうえで異文化を理解することは大事ですが、自身の取組みについても外国からの考えをそのまま使うのではなく、日本にあった発想法やデザイン思考の方法を考えることの大事さを改めて痛感しました。それにしてもこれが1967年とは...圧巻。
ただ1点。本書の中に出てくるパンチカードって何ですか?どんなものか僕には分からないのですが、父親の仕事とかで小さいころに見たことあるのかなあ?