集中力と実行力が違う:ジョナサン・アイブ

公開日: 2017年3月19日日曜日 クリエイティブ デザイン ヒト

これまでマーケティングや方法論に関する本が多く偏っていたので、もうちょっとデザイナーや個人にフォーカスした視点も持っておこうと思いました。プロダクトデザインに関わる人ならアップルは避けて通れませんが、これらを生み出した有名なデザイナーが今回取り上げる本になります。



ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー
リーアンダー ケイニ― (著)、関 美和 (翻訳)、林 信行(序文)
日経BP社 2015年1月

アップルのデザインについては色んな人がその素晴らしさを解説しているものの、当事者のデザイナー自身が語ることはあまりなく、どういった背景であのデザインが創りだされたか知ることができなかったので、この本はプロダクトデザイナーにとっては貴重です。それに、改めて考えてみると、一人のデザイナーを本人ではなく第三者の視点で記述した内容自体あまりないので、デザイナーの思考を知るうえで学びになる一冊ともいえます。

本書全般を通じて彼の『控えめで表裏がなく、仕事には真摯に立ち向かう』という良きイギリス人の気質が体現されたような姿勢が伝わります。一方であまり経営やお金のことには関心がないらしいですが、製品発表でもほとんど表に出てこない職人的なスタンスはデザイナーではむしろ珍しい方だと思います。(デザイナーは目立ちたがりの人が多い気がします)

デザインそのものに対するコメントは多分色んな人が言っていると思うので、ストラテジーの視点から感想を書いてみようと思います。読んでみて意外だったのは、そんなに計画的なわけではなく、常に思考錯誤しながらの開発だったんだなということです。彼自身そんな理論的な思考タイプな様ではないので、本の中に出てくる発言はデザイナーだったら割と普通な内容です。でも口だけでなく、構想を製品化まで体現していることが、やっぱりすごいと思わせる所以です。

僕が強く影響を受けたのは初代iMacからiPhoneが出始めた1998-2007あたり(スティーブジョブス復帰の時期です)ですが、考えてみれば、その頃の製品は今に比べてカタチも素材も外観イメージも結構いろいろです。何でそうだったかというと、その当時は常に新しいカテゴリとなる製品に対して、それぞれの最適解をカタチにするためだったということで、初代iMacはテクノロジーへの怖れを払拭させるためのデザイン、初代iPodは専門的でオタクな用途ではない白、初代iPhoneは通話するときの人が触れたときの最適解としての形状・素材・パーツ構成だったということです。(写真は自分の持ち物なのでモノトーンが多いですが、この当時はカラフルな製品も結構ありました)



1人のデザイナーが(開発はチームみんなで取り組んでいたけど)ここまで振れ幅を持たせたデザインを展開できるのもすごいことだと思います。個々の製品だけを見ると、そんなに一貫性は感じない、でもアップルの歴史として見たときにブランドを体現している製品群だといえます。

現場の泥臭い開発も意外でした。初代iMacの時は試作品を輸送するために、社員が30人で工場に出張して1人1台飛行機で持ち運んだいった様です。HONDAの本田宗一郎もかつて海外から帰るとき、スーツケースを空にしてモノを詰め込むために、何重にも衣類をすべて着込んで搭乗したそうです(面白い!)が、既に大企業だったアップルも、そんなベンチャー精神で取組んでいたという姿勢は尊敬します。どこか雲の上の存在だと思っていましたが、すごい会社はあぐらをかかずに努力しているんですね。



感想をまとめますと、やはり、まずデザインは理論だけでなく実行力が大事。そして、神は細部に宿るし、製品の良し悪しは細部に表れるものですが、デザインに対する集中力がジョナサン・アイブのすごいところなのではないかと考えます。僕もデザイナーの端くれとしては、理論だけでなくカタチにまで落とす実行力と、細部まで詰める集中力を大事にして日々取り組んでいきたいなと思った次第です。
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