見るだけでなく鋭い仮説を立てられるか?:ビジネスマンのための「行動観察」入門

公開日: 2017年3月29日水曜日 マーケティング メソッド リサーチ

デザイナーが得意とするリサーチスキルの1つにエスノグラフィがあります。ですが、このエスノグラフィという取組みは、かなりあいまいな位置づけに捉えられている印象があり、現場で何か見たらそれだけでエスノグラフィという言い方で使われていることもあります。

エスノグラフィは実践学問なので、理論上での手法やテクニックはある程度体系立てられていますが、実際には現場の臨機応変な取組みが必要とされるため、場数を踏んだスキルを磨く必要があると思います。この状況に対して、実例となぜそのような発見が得られたか?という背景を学ぶ実例が少ないため、エスノグラフィの使われ方があいまいになっているのだと思います。

本書は実例ベースでエスノグラフィのことを『行動観察』という言葉で紹介した本となります。(エスノグラフィはもともと文化人類学で使われた用語で、ここではビジネス・エスノグラフィという言葉の方が適切なような気がします)



ビジネスマンのための「行動観察」入門
松波晴人 講談社現代新書
2011.10

本の中では本人が実際にクライアントワークで取組んだ例をもとに、行動観察のコツを紹介しています。その範囲は主婦・営業部門・サウナの客…と幅広く、読み物としても面白いです。そういった人たちを観察するときに、『見る』ではなく『観る』ことができるのかが大事だと書かれています。どういうことか整理して書くと、

・見る:現状の目に見える事象
・観る:なぜその人はそんな行動をしているのか

ということです。見るのではなく観察することによって違和感や気づきが得られます。そうすると何故という疑問とともに「もしかしてその理由はこうではないか?」という仮説を立てることができるようになります。この仮説を立てられるかどうか、さらにその仮説の精度が高いかがどうかが、専門家としての腕の見せ所です。分かりやすい例は、靴のセールスマンがアフリカに行ったときに市場の可能性があると思えるか、といった有名な話のあれです。


デザインで取組む多くの課題は、定量調査(主に数字を使った分析)では導かれないことが多いです。そのため、この行動観察のような定性調査を使いますが、定性調査で導かれる答えは1つではないため、自分自身がどこに着目するかといった目の付け所が問われるようになるので、鋭い仮説を立てられるかはデザイナーに必要なスキルともいえます。

なので本書のタイトルは『ビジネスマンのための』となっていますが、デザイナーやストラテジストにとって最適な本なんじゃないかと読んでみて思いました。アマゾンの評価では物語ベースよりも体系立ててほしいという意見もありましたが、僕は冒頭で書いたように理論よりも実例ベースで学べる本書の構成の方がよいと思っています。何より読んでいて面白いので。

ちなみにより体感的に理解したい人は、元IDEOの人が出した「考えなしの行動?」もおすすめです。これはほぼ写真だけなので、そこからよい仮設を立てられるか、読み手の力が問われます。
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