シナリオプランニングとしても金字塔:ワーク・シフト

公開日: 2017年6月11日日曜日 ソーシャル メソッド リサーチ

少し前の本ですが、当時とても話題になったので読んだことがある人も多いかと思います。内容はもちろん面白いのですが、今回ここで取り上げる意図はすこし違っています。それは、本書をシナリオプランニングのアプローチとして捉え、この内容を導き出したプロセスを構造化してみるという目的で考察してみます。個人的にはこの考察を通じて、未来を描く取組みに強い可能性を感じていますので、少し力が入った内容です。



ワークシフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
リンダ・グラットン (著), 池村 千秋 (翻訳)
プレジデント社 (2012.07)


この本との出会いは2013年くらいで、その時は「未来のことなのになんか妙にリアリティと納得感のある内容だな」と思っていました。その後、シナリオプランニングに関する手法に興味を持ち、いくつかの本を基にプチ実践をしてみたのですが、正直ピンと来るものがなく何か違うと思っていました。そのときにふとワーク・シフトのことを思い返してもう一度読んでみたところ...

「これって正にシナリオプランニングそのものじゃないか!!」

と衝撃を受けました。正直、著者のリンダ・グラットンさんがシナリオプランニング的アプローチでこの内容を導き出したかどうかは分かりませんし(本書の中でシナリオプランニングや未来洞察といった言葉は一度も使われていない)、僕の勘違いである可能性もあります。でも勘違いだったとしても、この導き方は今まで読んだ本にはない魅力を感じました。何よりも結果として未来シナリオの内容がどれも納得感あるものであったことが、それを裏付けます。

他の本と何がそんなに違うのかについて2点説明します。

まず1点目は、世の中の一般的なシナリオプランニング手法は、色々な変化の兆し(ドライビングフォースという)を集めたあとに、最終的に2つの軸をつくって4象限からシナリオを描く(場合によっては2×2×2=8シナリオ)というステップになっています。色んな事象があるのに2軸に収まるのは違和感がありました。ワーク・シフトではそういった理詰めな整理の仕方は紹介されていなく、各ストーリーは33のドライビングフォースからそれぞれを組み合わせた構成になっています。このくらいの感覚的な整理の仕方の方が、大事な要素を殺してしまわないし、ドライビングフォース同士の掛け合わせも自然である印象を受けます。

2点目は、未来を複数描いて終わるのではなく、どの未来が訪れたとしてもそれに向けて備えておくべきアクションプランを最後の結論に持ってきている、ということに着目しました。未来は予測できないもの、という考えはこのブログでも過去に書きましたが、4つの未来を描いただけでは、それをどう扱えばよいか分からないし、どれを選択するかという発想に陥りがちです。元々シナリオプランニングを広める要因になったシェル石油は、予測できない社会や業界の変化に柔軟に対応できた結果、今の地位を築くことができたとされていますので、大事なのは個々のシナリオに着目するのではなく、それを取り巻く要因や背景をつかむ視点を持つことなのだと考えます。

これらのプロセスを構造化して捉えるため、本の項目を表にしてまとめてみました。(構造的に整理したいときにたまに使う独自手法です)なので今回は手書きメモではなくて表形式です。

各項目がどのようにつながっているかを理解することができるかと思いますし、ここから形式化することによって、未来を描く取組みのガイドとして活用することができるのではないかと考えています。本書を読んだことがある人も、この表をもとにもう一度読み返してみることで、思考や構造のプロセスが見えてくるのではないかと思います。

社会学者である著者のリンダ・グラットンさんは、最近では新書のライフ・シフトでまた注目を集めています。この本も読みましたが、より未来の捉え方が進化しており、ワーク・シフトよりも深い考察がありますが、僕の中ではまだ構造的な理解が追いついていないので、できたらいずれまたここで紹介しようかなと思います。

シナリオプランニングに興味を持った人には、手法を解説した本を読むよりも、はじめにこちらの方を読むことを、僕は強くおススメします。

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