ボヘミアンがまちをつくる：クリエイティブ都市論

公開日： 2017年6月18日日曜日 クリエイティブ ソーシャル 建築

最近の僕の関心は『食』なんですが、新しいまちの開発に、美味しいお店を定着させるのってすごい難しいことなんだと思っています。よくある駅前開発で大きなビルをつくると、ビルができる前に市民に親しまれた味のあるお店がなくなり、代わりにチェーン店の飲食店が並ぶ構造がよく見られます。でもそれはまちとしての魅力を感じられず、何か違うと思うんです。この本はそんな思いに対して何かヒントを与えてくれそうです。なんたってクリエイティブ×都市の組合せだから。

クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める
リチャード・フロリダ(著)、井口 典夫(訳)
ダイヤモンド社　2009.02

僕なりに印象深かった3つのキーワードをピックアップして感想文を書きます。

●スパイキーな世界

2000年頃にITが浸透したときに「これからはどこの場所でも仕事ができる、都市に集まる必要がなくなる」ということが期待されていましたが、実際はまっさきにIT系の会社が都心の六本木ヒルズに集まってきました。一部のまちではITで新しい風が起こってはいるけど、全体で見たときには、都市の集中化はより強まっているという傾向は今も変わらないようです。

世界的に見ても都市の過密化は顕著で、著者はそれを『スパイキーな世界』と表しています。この意味は、人口が集中していることに加え、優秀な人も多く集まってきていて（収入・研究者の数・特許数などから算出）、都市の規模も巨大化している（夜に明かりがついてるエリアを見てみると広範囲に広がっている）ということです。例えば日本の首都圏は千葉・埼玉・神奈川やその先のエリアまで広がっていて、東京を東京都という枠でくくることが難しくなっています。

●ボヘミアン

次にそんな巨大化した都市の中でも、どういったまちが発展していくかということが書かれています。この本のなかで一番面白いなと思ったところですが、芸術家・デザイナー・音楽家・作家などに加え、ゲイなどの文化的な多様性を持つ『ボヘミアン』と呼ばれる人たちが住むと、まちの価値が上がる（＝地価や家賃が上がる）傾向があるということです。彼らは環境への美的感覚を持ち、多様性に大して開放的で寛容的であるため、より多くを受け入れ地域に貢献する活動につながるということです。

この視点はさっきの『スパイキーな世界』に比べてデータからは見えにくいのですが、とても大切な点です。アメリカやヨーロッパ圏では、アーティスト達がそれまで注目されなかったエリアに集まり、通りやまちを活性化していくという例が見られます。わかりやすい例が、ロンドンやポートランドだと思います。日本でもそういった取組みはありますが、大きく目立った結果はまだそれほどないと思います。個人の見解ですが、それは日本ではまだ『ボヘミアン』に対する価値が十分に認識できていないからではないかと考えます。

●誇りや愛着心

そして、そういった居住地への満足度が感じられる要素を観ていくと、自分実現できることはもちろん、それに加えてまちに対する『誇りや愛着心』といったことが挙げられるということです。人の５段階欲求で有名なマズローは晩年、ピラミッドの頂点は自己実現ではなくて、その上には「他人を助けたい」といった自己超越があるかも、と言っていたそうで、まちの満足度の１つがこれに当てはまるります。

自分事で考えてみれば当たり前の話ですが、自分が住んでいるまちを好きといえるかどうかは、自分のやりたいことができるだけではなく、そのまちに何かしら関われているか、（例えばお祭りに参加する）といった帰属意識のようなものが不可欠です。これは『ボヘミアン』と同様、データからは見られにくいけど、こういった要素を読み取っていかないと、人のこころに届かない無味乾燥な再開発のまちづくりをしてしまいかねません。

以上のように、２１世紀はこれら３つの要素を備えた都市が進化しており、それを一語で集約すと、本書のタイトルでもある『クリエイティブな都市』であるといえます。この視点はクリエイティブ業に携わる僕にとってはとても前向きにさせられる気づきでもあるし、都市開発というとどうしても役所的な視点が強かった対象に対して、クリエイティブな人や活動がたくさん関わっていくことができるというのは、なんだかワクワクします。

冒頭の僕の関心に戻りますが、美味しい食を定着させるまちづくりをするには、ボヘミアンである料理人や食にこだわりを持つ文化意識の高い人たちが参加・活躍できるような場をつくることで何かできるのではないかと思いました。不動産系の人にはぜひこのあたりの考えを取り入れて、都市開発をしてもらいたいです。（Ｆ市がんばれ）