マンガは総合芸術だ:荒木飛呂彦の漫画術

公開日: 2018年9月22日土曜日 デザイン ヒト メソッド

ジョジョ好きです。何というか、ジョジョの世界に一度はいると世界観にハマってしまう、不思議な魅力があります。そんな荒木先生がマンガではなく活字で漫画の描き方を紹介してくれるというのはすごいことです。この本は出たときに割とすぐ読んだのですが、今回改めて読み直してちゃんとメモをとりました。



荒木飛呂彦の漫画術
荒木飛呂彦
集英社 2015.04

荒木先生は独特の世界観で個性的なマンガを描きますが、この本のテーマは『王道の漫画の描き方』についてです。絵やセリフなど強い個性が出ていたとしても、基盤をしっかりと抑えたうえでのマンガであることが読者に受け入られるかどうかを左右するということです。人気があり長く連載が続いているマンガは、スタイルはそれぞれ違えど、共通してこの王道をちゃんと持っていて、そしてもちろんジョジョも、もちろんそれをもとに描いているということです。

実は僕、大人になってからマンガ教室に週1で通っていたことがあるのですが、その中でも王道の大切さを教えてもらいました。巨匠の1人、高橋留美子(めぞん一刻、うる星やつら、らんま1/2、犬夜叉、境界のRINNE、どれも長期連載、すごい)のマンガを例に取り上げコマ割りを分析してみたところ、すご~く読みやすいことが分かります。コマの前後関係が丁寧につながっている、1コマの構図が読みやすい、右上から右下へ読んでいくときの目線の動きがシンプルに配置されているし、登場人物の位置関係もそれに合わせられている、など。自分がいまいち心惹かれないと思ったマンガとコマ割りを比較して読んでみてください。その差は歴然なのがよくわかります。

この本では王道の漫画を描くためには「基本4大構造」があるといいます。それは

1. キャラクター
2. ストーリー
3. 世界観
4. テーマ

です。そしてそれをすべて表現するベースに当たるのが『絵』という構造です。そしてこの中でも特に大事なのがキャラクターであるということで、極端にいうとキャラクターさえあればマンガはできる、といっています。例えばドラゴンボールやこち亀は、すぐに主人公の人物を思い浮かべることができます。人気のあるマンガはどれもはっきりした主人公がいます。僕は割と雰囲気が好きなマンガに影響を受けるほうなので、主人公のことをあまり考えずに、短編に挑戦してみたことはあるんですが、ちょっと描いてみてなんとも味気ない感じになって途中でやめてしまいました。

話が大きくなるんですが、僕はここにアートとデザインの違いを感じます。デザインは作者の主観が全面には出てこないんです。もちろん表現者の意図はあるんですが、前提となるのがクライアントの課題を解決することとか、ユーザーの立場になって分かりやすく表現するとか、主体が自分ではなく相手や社会の方にあります。それに対してアートは作者の意図がもろに出るので、強いメッセージとか想いが全面に表れてこないと、たとえテクニックがすばらしくても魅力を感じないものになってしまいます。

デザインのアウトプットでムービーや絵コンテなどでストーリーを描くことがありますが、傾向としてみんな幸せだけどリアリティのないような表現になることが多いです。(未来を描いたCMとかでよくある)これは主体が制作者側にないから=あくまで客観性を保った表現にする、だからじゃないかと思います。でもそれだけだと印象に残る伝え方にはならないので、デザインのアプローチでも時としてアートの要素が必要になるときはあります。マンガを描いてみるとトレーニングになるかもしれません。

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一方、マンガといえば絵の表現は欠かせませんが、この本では絵は基本4大構造のベースになるものと位置付けています。うまいことが大事ではないけど、仕組みや構造を理解していないと読者にバレてしまうので要注意ということです。例えば銃の仕組みをわかっていないで描くと、詳しい人が見ると「これ違うよ」と気になって冷めてしまい、マンガの世界観から離れてしまうことになります。

それは人でも同じことで、顔の比率、骨格のつながりを意識しておくこと。関節はまっすぐではなくナナメについている、ということを抑えてグネッと身体をひねらせてみると...おお、ジョジョ立ちのポーズっぽくなった!一見、独特に見えるジョジョのキャラクターの姿勢もしっかりとこの基本を抑えているから変だと思うのではなく惹きつけられるんでしょうね。参考になります。



マンガの描き方に関する本は、たとえばマンガの神様・手塚治虫の本は数多くあります。本人が書かれたものは絵の表現が中心の内容が多く、他の人の解説によるものだとコマ割についてやストーリーの組み立てかたなどが説明されていて、すごく面白いのですが、それ以上に、やっぱり天才は違うなあ、という印象が残るばかりです。あとマンガでは、藤子不二雄Aのまんが道や最近だとバクマンが、漫画家になるための道のりがリアルに描かれていて、漫画家たちの生活スタイルや成長過程がイメージできます。あと浦沢直樹さんが漫勉というTV番組を企画していて、漫画家の制作に密着している内容はとっても面白かったです。

ですが、具体的にどうストーリーやキャラクターをつくっていくかということについては、各漫画家の知られざるワザみたいなところがあって、謎につつまれている印象があります。それを知れるという意味で、この本は革命的な内容だということができると思います。

そういえば国立新美術館で10月1日まで荒木飛呂彦原画展やっています。まだ見にいってないのでいかねば。
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