アートとデザインのあいだ:スペキュラティブ・デザイン 

公開日: 2017年6月7日水曜日 クリエイティブ ソーシャル デザイン

この本が出たのは2015年ですが、本国ではその2年くらい前に出ていて、かつ活動自体は2000年はじめくらいから取り組まれていたそうなので、特別新しい概念なわけではないみたいです。が、僕は最近まで知らなかったことと、スペキュラティブって何のことか分からなかったので、本の存在は知っていたけど手には取りませんでした。それが最近、デザインについて考えていたときに気になり、同時に何人かの人がこのことを話していたのをきっかけで関心が高まり読む動機につながりました。



スペキュラティヴ・デザイン
問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること
アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー (著)
久保田 晃弘 (監修)、千葉 敏生 (翻訳) 、牛込陽介 (寄稿)
BNN出版(2015.11)
 
日本語に訳すと、スペキュラティブとは Speculative= 思索的 という意味のようです。思索という言葉自体あまり使わないので日本語でもピンときませんが、社会に対してメッセージを問いかけて対話を生み出すというようなニュアンスがあり、Conceptual DesignとかCritical Designに通じるところがある概念です。翻訳者は簡単に訳せるものではないということを読み取って、あえて日本語にはせず、スペキュラティブ・デザインという言葉をそのまま使っています。たまたまデザイン系雑誌AXISのバックナンバーをみていたら(たぶん10年くらい前)、著者たちの活動が記事になっていましたが、その当時はクリティカル・デザインという言葉が使われていました。

タイトルの副題にある、問題解決から問題提起へ。というのが本書に対する議論の中心になるかと思います。よくアートとデザインの違いについて議論がありますが、一番多く言われている(と思われる)意見は『デザインは問題を解決してアートは問題を提起する』という考えです。じゃあスペキュラティブ・デザインは思索する・社会に問いかける取り組みなのとしたら、それは問題提起の手段なのだからデザインではなくアートなのでは?と複雑な位置づけです。(これ自体が議論を生むともいえる)

デザイン側から問題提起的なアプローチを考えてみると、例えばモーターショーに出てくるコンセプトカーは、社会に問いかける機能を持っていますし、家電や家具分野でも、アドバンスドデザインといったカテゴリで、X年後の生活とXXといったような企画もあります。(ただ、特にiPhone登場以降こういった企業活動は最近ずいぶんとなくなった気がします)また、デザイナー側からより強いメッセージを問いかけるような活動もあり、オランダでは、古くはデ・ステイルから2000年頃のdroog design(僕のデザイン観を変える衝撃を受けました)まで、こういった活動が多く目立つ印象があります。

一方で近年のデザインは、デザイン思考を中心とした、ユーザーとともに考えていく・よりよい社会をつくる、といった問題解決のアプローチが色濃い印象があります。僕もここ数年はこういった取り組みに関わることが多いのですが、やっているなかで疑問もあって、問題解決はマイナスをゼロにする域を超えることに難しさがあり、プラスに持っていくためには問題提起を発信していく必要性を考えてしまいます。例えば健康な社会を目指すために問題解決でできることはあるけれど、そもそも健康とは何か?とか、健康と長寿命化や食料問題などの関係をどう捉えるか?といったようなことを問い直していかないと、本当の意味での健康の考えにたどり着くことはできないです。病室で意識がなくチューブがつながった状態で生き続けるのはよいことなのか、安楽死はありなのか?など。

そういった意味でスペキュラティブデザインのアプローチに個人的には強い期待を持っています。ですが、こういった活動はきっと昔から共通の悩みも含んでいて、それは提起するだけで解決しない(実際のサービスや社会活動として還元されない)といった類いのジレンマです。この、アートからデザインのつながりを真剣に考えていかないとダメなんだろうなと思いつつ、じゃあ具体的にどうしたらよいのかはまだ模索段階なので、なにか意見を持っている人がいたらぜひ話を聞いてみたいです。






僕にとってのスペキュラティブ・デザインは、Philipsが10年くらい前に行ったDesign Probeという活動が、当時の家電メーカーとしては思考が飛んでいて(タトゥーを医療に用いるとか)、他にはみられない先進的な未来を示していましたが、今Philipsは医療分野に注力していて、Design Probeの活動がうまくつながったのかなと思っています。実際に当事者に聞いたわけではないので、どうなのかは分からないですが、こういったことを検証しながら、スペキュラティブ・アートではなくスペキュラティブ・デザインになる活動につなげていきたいなと思っています。
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