仮説の判断は多数にゆだねないこと:スープで、いきます

公開日: 2017年7月7日金曜日 ビジネス マーケティング

前に仮説をつくる考え方について佐渡島さんの本を紹介しましたが、この本もその考えに通じるところがあり、かつ自社ビジネスとして実践して社会に受け入れられているという点で、また学びとなることがありましたので紹介します。



スープで、いきます 商社マンがSoup Stock Tokyoを作る
遠山正道
新潮社 2006.02


今や東京だけでなく関東から全国で見られるSoup Stock Tokyoですが、本書では大きく、お店ができるまでと、できてから規模を広げていくまで、のお話しが書かれています。僕はこの本を読んで特に、なぜスープに着目したのか?ということや、どうやって社会に受け入れられるように取り組んだのか?ということに興味を持ち、読み始めました。

著者の遠山さんは、あるとき女性が1人でスープを食べている姿を見て「ふーん、いいかも」と思ったそうです。この「いいかも」は直感ではあるけど、自身の経験やマーケティング視点で捉えたときのチャンスがあることを見出したうえでの、精度の高い直感といえそうです。遠山さんの視点はこのような点。

・女性が入れるお店が全然ない(忙しい女性が多いにも関わらず)
・がっつり系でない女性にあったメニューが少ない
・無添加の食べ物が外食であまり食べられない
・でもナチュラル系フードはあまり好きになれない(何かわかる)


こういった仮説をつくるには既存のデータからは見えてきにくいと思います。前回の本、経済指標のウソで紹介したように、その数値が目的に即したものでない限り、指標から新しい発見をするのは難しいので。ですが興味深いのは、この考えを説明したところ、生活者には興味を持ってもらえたそうですが、飲食関係者には否定的だったそうです。社内の理解が得られないから企画の見込みが低いと考えるのは早計だとわかる好例ですね。

その後、事業計画を立てて実行に移すために、『スープのある一日』という物語形式の企画書をつくったり、『秋野つゆ』というペルソナ像をつくっていきます(このペルソナは有名ですね)。ポイントはイメージを共有するだけでなく、そこに具体的な判断軸を設定ことによって、事業企画を詰めていったということです。ストーリーやペルソナなど定性的でデザイナーが好む整理は、イメージは共有できるけど具体的な活動につながらなかったりすることがよくあるので、見習いたい点です。


そうしてつくっていった事業計画ですが、社内に説明したところ、ダメな理由をたくさんあげられて結果はさんざんだったそうです。ですが、あるとき1人の常務から『味は良いから、情熱と勢いを持って頑張ってほしい』といわれ、それが背中を押すカタチとなって何とか1店舗目への開店に結び付けることができたそうです。(その後も立地・メニュー・オペレーションなど色んな苦労はあったそうですが)

この1人の後押しというのがどれほど大切か、ということがよくわかる話です。そういった人に巡り合うかどうかは運によるところもあると思いますが、戦略的に整理して考えてみると次のようなことがいえると思います。

・新しい企画は必ず否定されるもの(多数派は否定的)
・誰か味方を1人見つけることに注力すべき
・味方は多数である必要はないが後ろ盾になれる人が望ましい
・そういった人を動かすためには、建て前でなく本音で伝えられること


反対が多い状況が前提であることを考えると新しい取組みは、精神的にある程度タフである(あるいは鈍感であること)ことは必須なので、客観データでは語れない熱い信念を持ち続けられることが求められます。Soup Stockのお話しからは、手法やフレームワークだけに頼ってもイノベーションは起こせないということがよくわかります。でも一方で戦略的に動くことで精度や確率を上げることはできるということもわかりました。

ちなみにSoup Stock Tokyoのロゴはモノクロですが、これまでの飲食業界では非常識だったそうです。それでもモノクロにしたのは、スープに色があるのだから、それを引き出すために黒を選んだということです。これも常識に捉われず仮説を持って信念を通したからできたことなんだと思います。周りの声に左右されない仮説と信念を持つこと、日々意識したいものです。
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