未来は予測するものか?創造するものか?:超予測力

公開日: 2017年7月10日月曜日 リサーチ

前に何回か『未来は予測できないもの』『予測ではなく洞察から未来を創造するもの』といったようなことを書きました。それに対してこの本は未来を予測するという趣旨のものですが、この本を読んで、2つは決して相反する内容ではないと考えられるようになりました。100%確実に未来を予測はできないけれど、状況から推察することである程度予測の精度を高めることは可能であり、本書に書かれている予測に関する10の心得はリサーチに携わる人にとって必読ともいえる内容だと思ったので紹介します。



超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条
フィリップ・E・テトロック&ダン・ガードナー 土方奈美(訳)
早川書房 2016.10


この本はTakramの佐々木さんから、前にセミナーを受けたときに紹介+強くお薦めされたものです。(すぐに読みたかったのですが入手するまで時間かかっちゃいました)佐々木さんのセミナーのタイトルであった『Creative Knowing』は、知らないことを知る=常に自分は知らない/間違っているかもしれない、という考え方がベースとなりますが、その意図するところが本書の中からたくさん見つけることができます。

本書をかんたんに要約すると(だいぶ雑ですが)「世の中には未来に起こることを高い精度で予測できる『超予測力を持った人』がごく少数いるが、それはテレビに出ているコメンテーターではない。(実際、コメンテーターの予測は超予測力の人と比べてはるかに低い)で、彼らの予測スタイルを分析してみたところ10個ほどの傾向が見えた」といった内容です。

ここで予測と精度の関係性を考えてみたいと思います。一般的に時間が先になればなるほど精度はバラつきが生じます。分かりやすい例は天気予報で、明日の天気と10年先の天気の精度は全然違うことが明らかです。天気予報は過去のデータに基づき未来を予測するアプローチなのでデジタル的な処理であり、この領域は今後AIによって精度がますます高まっていくものと思われますが、時間軸との関係性は基本変わらないものと思われます。

ですが、予測精度に関する要因はこれだけでなく、対象の事象が複雑になることによって予測はより困難になります。例えば「●●国の経済は3年後どうなるか」といった事象は、過去の統計データだけでなく、国の政策、他国との関係、社会ニーズの変化など色んなことが影響した結果起こりうるものです。これはまだ現状では、AIで扱えるものではありません。(いずれできるのかもしれませんが)

で、彼らが持つ10の傾向というのは、テクニックやスキルの問題だけではなく、心がけや物事の考え方といった、極めて人間的な要素が大事になっているということです。例えば『Creative Knowing』の考え方にも通じる、慎重さや非決定論的な考え方は、偏った思想や見解に左右されずに中立的に事象を捉えることに役立ちます。(コメンテーターは持論ばかり話す人が多く、彼らとは対極ともいえる)それらを心得にしたものが下記10項目となりますが、タイトルだけでは文脈を理解しにくいので、本書を読むことをお勧めします。

メモは左が心がけ、右がテクニック(心得)になります。僕のメモはあくまで理解の手助けという位置づけですが、頭の整理に使ってくれればと思います。



僕が目指しているデザインストラテジーの役割は、新しい機会領域を発見して実現化へのつながりをつくる取組は不確実性が高く、超予測力のアプローチとは一見異なるようにもみえます。ですが、新しい機会領域に対して説得性や見込みを持たせるためには、未来予測によって精度を上げていくことはとても大切なことなので(それができなければただの自己主張をしているだけ)、超予測力の心得はとてもためになる内容だと思いました。

というわけで、冒頭に書いたことを振り返ってみます。予測か創造かといった考えを次のように整理することができるかと思います。

・未来予測:Forecast(過去に基づき推察する)
・未来創造:Backcast(構想を実現化させる)


クリエイティブ側の人はBackcast視点で取り組む人が多いですが、Forecastを無視すると実現性などの精度を高めることはできません。他方、ビジネス側の人はForecast視点が強いですが、これだけでは既存領域からの脱却は難しいです。なので、デザインストラテジストはForecastとBackcastの間を行ったり来たりしながら、両者をうまくつないでいけるかが大切な役割であるかといえます。

自分の考えを整理するのにとても参考になる本でした。あとは実践あるのみです。
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