クリエイティブなロジックづくりの天才: 佐藤雅彦全仕事

公開日: 2017年7月13日木曜日 デザイン ヒト メソッド

日本に住んでいてこの人の仕事を知らずに暮らしていくことは無理といっても大げさではない、クリエイティブディレクターの佐藤雅彦さんが、広告会社にいたときの実績をまとめた本です。この本ではCMではポリンキーやバザールでござーるから、カローラⅡなどが紹介されていますが、その後は広告の外にも活動を広げて、ゲームのIQやテレビではウゴウゴルーガやピタゴラスイッチなど、子どもから大人までに影響を与えている人です。



佐藤雅彦全仕事
佐藤雅彦
マドラ出版(1996.06)


広告代理店のディレクターというと、完全に偏見ですが、何となくギラギラした業界人がすごい熱量でつくりあげていくイメージが強いのですが(スミマセン)、佐藤さんはそのイメージとは真逆で、控えめな印象で言葉づかいも柔らかい、たぶん業界でも異質な人だったんだろうと思います(そういう存在に憧れます)。しかも、元々はクリエイティブ職ではなく、学校も工学系でしばらくは営業職だったそうなので、余計に神がかった存在です。

そんな神技的なことをどうやってやったのか、隠すことなく素直に本書で丁寧に説明されています。ちなみに佐藤さんは結構いろんな本を出しているので、どの本を読んでもそこから思考の切り口を見出すことができます。

佐藤さんが生み出す広告・CM・テレビ・ゲームはこんな傾向があります。

・ユーザーを選ばない
・一目ですぐわかる
・子ども心や好奇心をくすぐる
・頭から離れない
・絶対に嫌な気持ちにならない(人を選ぶ広告って意外と多いと思う)


クリエイティブに携わる人にとって、こんなことができるなら無敵とも思えるものばかりです。ですが、ここが興味深い点で、佐藤さんは人の感覚的に訴える方法を極めてロジカルに整理して考えていて、アートではなくサイエンスに近いといえます。なのに生み出されるものにはロジカル的な理屈っぽさや小難しさがまったく感じられない、ここが周りから天才といわれる所以なのかと思います。

本書に書かれている一例をあげると、佐藤さんはディレクターとして活動する前に色々なCMを分析したところ、映像よりも音のほうがより強い印象を与えられることに着目しました。それを音のデザインとして具体化していき、出演者本人がしゃべってCMメッセージを伝える『ドキュメント・リップシンクロ』という手法を確立させました。そこから生み出されたものが「カリッとサクッとおいしいスコーン」や「バザールでござーる」「うまいんだな、これが。」などの有名なCM達です。



こう書くと、後知恵的にそんなものかなと思えそうですが、業界の中にいるとこういった視点には気づかないものです。たぶんどの業界にもあるはずで、素直な視点で一度引いて、業界の常識を根本から疑ってみることで気づくことがあるのだと思います。だけど、それを実践できるかはもっと大事で、佐藤さんは考えるときも、文字で考えないで、音や映像などで考えるそうです。会議室の中で、色々口ずさんだり歌ったりするそうで(!)これは頭で理解していてもなかなかできることではないです。僕もクリエイティブ職だけど、こんな会議をしたことはないです。

やっていることは超クリエイティブで理屈では伝えられない取組みだけど、その考え方はとてもロジカルで理論的。デザインストラテジーの領域でも、このクリエイティブとロジカルのバランスを自分の中で使い分けられるかがとても大事だと思います。ビジネス寄りが強すぎると理論的には納得性が高くても何かグッとこない、逆にエモーショナル要素ばかりだと楽しいけど効果につながらない、といったことがあります。両方をうまく使いこなすことができるのは1つのセンスだと思いますが、理想像として佐藤さんの仕事を見習いたいところです。

僕の娘は佐藤さんのCMを知らない世代ですが、時代に関係なく、この本を見せたところ見事に面白がってハマっている(口ずさんでる)のが、佐藤さんの偉業を証明する何よりもの証拠です。ホント、すごいな~。


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