技術の話ではない、思想の話だ: BLOCK CHAIN REVOLUTION

公開日: 2017年8月21日月曜日 テクノロジー ビジネス

今回はブロックチェーンを代表する本です。シェアリングエコノミー、AI、ロボット、ブロックチェーンなど新しい技術とサービスの関係性は深く、避けては通れないので、ちょっと遅いけど知っておかなければと思い読んでみましたが、この本はすごいです。何がすごいかというと、技術論の〇〇ができるといった話では終わらず、国家や民主主義のあり方とったことにまで話が及んでいる点です。



BLOCK CHAIN REVOLUTION
ドン・タプスコット、アレックス・タプスコット
ダイヤモンド社 2016.12

ブロックチェーンの特徴は分散性・公共性・高度なセキュリティ、といったことが挙げられますが、その根底には『信頼のプロトコル』という考えがあります。これまでのインターネットで扱われる情報はコピーできることが価値とされてきましたが(1つのデータを複数人で共有できる)一方でコピーされた情報にともなうひずみも多く出ていまた。その1つが信頼性であり、セキュリティやソースの確からしさといったことにつながります。対してブロックチェーンはその1つがユニークなものであり、つながりによって信頼性や安全性が担保されているというものになります。

いまそれがフィンテックの分野でビットコイン等に多く使われており、ブロックチェーン=ビットコインのような認識が広がっていますが、それはあくまで手段の1つであり方法論の話です。この本が伝えたいことは技術の話ではなく、それを使うことによって世の中がどのように変わるか、ということです。分野でいえば、金融・企業や組織・IoT・シェアリングエコノミーといった直接的なビジネスがありますが、そういった社会になることで、クリエイターに対する対価、お金の価値、民主主義がどうなるか、といったことによりフォーカスをあてています。

例えば音楽の世界では、これまで簡単にコピーできることからクリエイターの立場が弱い状況に置かれていましたが(その結果、20世紀に比べて、ミュージシャンの創作環境は悪くなっているのではと思います)、個人性が際立つことによって知的財産権の立場が戻り、システムの運営だけで不当に稼いでいる(あるいは搾取)構図を生み出すことができるのではないか、ということが考えられます。さらにこういったことで、型にはまらない人をドロップアウトしない仕組みができるのでは、という社会への視点にまで考えはおよぶようになります。

これは個人的にはとても共感できる点です。昔に比べて、世の中の評価は学歴と年収ばかりが強調され、生き方の多様性は狭まっているような気がしていますが、そこにはITやデジタルがもたらす負の側面もあると思います。ブロックチェーンによって、職人やクリエイターの評価が高まるような社会が実現されるなら素晴らしいことです。僕は技術を直接扱う人ではありませんが、デザインストラテジーの観点から捉えると、目指したい社会に向けた戦略を考える際の1つの重要なファクターであることは間違いないので、何ができるのかということには深く知っておく必要があると思いました。



技術の多くは、思想や倫理観よりも先に実社会に出てしまいますが、ブロックチェーンの黎明期であり多くの人がまだよく理解をしていない段階で、このような本が出てきたことはとても大切なことだと思います。ぜひ一部のずる賢い人達だけの金儲けに使われるのではなく、社会をよりよくするための重要な基盤になれることを望みます。〇〇できる、といった技術論の話ではなく、それで社会をどうしたいか?といった会話が増えていけるよう、技術に詳しくなっておきたいです。
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