デザイナーならではのスタートアップ企業:Airbnb Story

公開日: 2017年10月28日土曜日 クリエイティブ デザイン ビジネス

いまや世界中に広がっている民泊サービスのAirbnbですが、創業から今にいたるまでが書かれている始めての本です。2000年に入ってから数多くのStartup企業が世界規模で出てきていますが、創業者の多くはITを活用したエンジニアやビジネスの出身です。その中でAirbnbは創業者3人(チェスキー・ケビア・ブレチャージク)のうち2人はデザイナーで、デザイン側の自分としては「デザイナーが起業するビジネスは他の人たちとどういった点が違うのだろう?」ということが気になり、この本を読んでみました。



Airbnb Story
リー・ギャラガー(著) 関和美(訳)
日経BP社 2017.05

本書は前半がビジネスを構想してから軌道にのるまでの苦労、後半はビジネスをスケールさせることに伴う数々の苦労、どちらも苦労話ですが、笑える話から胸熱な話までバラエティに富んでます。

まず前半で面白かったのが、全然計画的でないことです。何の知識もなくとにかく動いて人に会って、知らないからこそ大胆に動けるというのもあるかと思いますが、フットワークの軽さがすごい一方、行き当たりばったり的な展開は正直まったくスマートではないです。でも高学歴のエリート出身の人だとこうはできないんだろうな(これがデザイナーの素養なのかはわからないけど)と思いました。

そのなかでも、デザイナーだからこそできる、構想をすぐ具現化してサービスに反映できる力があります。たとえば当時、大統領選挙でオバマ候補を応援するために、シリアルのパッケージデザインをして宿泊サービスのギフトに組み入れるという取組み(思いついたらすぐ自分で考えて自分でつくれる)や、サイトでもSteve Jobsが言っていた3クリックルールを重視して、ユーザビリティを徹底していたあたりも、デザイナーならではといえます。

また、これは有名な話ですが、Airbnbのサイトを見ていて、あるとき「部屋の写真が全然イケてない!」と気づいて、自らがオーナーの部屋を訪ねて写真を撮り(カメラは知人に借りたそう)、それを掲載したところ、利用者の数が伸びていったということです。ここに気づく視点はデザイナーならではと思いますが、その背景には、本人がオーナ―宅を1件ずつ回って直接話をしている中で得られた気づきなのだそうです。デザイナーの基本行動であるユーザー視点で現場を見る、という行動がビジネスに大きく寄与するという素晴らしい事例だと思います。



後半では、会社が大きくなるうえで避けて通れない、サービスの質をどう保っていくかということや、企業文化やマインドをどう定着させていくかという話に移ります。同時期のStartupの代表格としてはUberが挙げられますが、ここではAirbnbがUberと違う理由が明確に表れています。

Uberは勝者の論理が先行してユーザー視点が薄い印象があります。それが社内倫理のトラブルやドライバーの反発を招いたりしました。いずれは無人配車で一番のユーザーであったドライバーを排除しようという視点は、ドライバー側にとってたまったものではありません。

ですがAirbnbはあくまでオーナーとゲストを起点として考えています。常にミッションステートメントを意識して、サービスに関わるすべての人の体験にプラスになるかを核としてビジネスを展開しています。これはデザイン思考やHuman Centered Designの考えの基本であり、それをビジネスで実践できているAirbnbは、デザイナー出身のStartupだったからこそ、ここまで大きくなれたということができるのではないかと思います。

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ビジネスが大きく変化しデザインの境界があいまいになっている中、不安を感じるデザイナーは少なくないと思いますが、そのなかでAirbnbの様な会社が出てきていることは、とても勇気づけられることでした。

あとCEOのチェスキーはとても勉強家で、今でもたくさんの本を読むそうです。本ばかり読んでいるのはデザイナーとしていいんだろうか?と迷うことがたまにありましたが、これについても勇気づけられました。活躍している世界のレベルが全然違うから、一緒にするな、という話かもですが。
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