まじめに変なことをする:「ない仕事」のつくり方

公開日: 2017年10月29日日曜日 コミュニケーション ヒト メソッド

みんな大好き、みうらじゅんの本です。これまで、このブログではかためのビジネス書をたくさん取り上げてきましたが、もともと僕は美術系だったこともあって、そういった本よりもマンガとか面白系の方にしか関心がなかったほうです。が、気づいたら最近はそういった気持ちを忘れていて、心の片隅では何か無理しているような気もしていたときに、なぜかこの本を見つけました。で、読んでみて『これだ!』と思いました。



「ない仕事」のつくり方
みうらじゅん
文芸春秋 2015.11

「マイブーム」からはじまり、「ゆるキャラ」「いやげモノ」「いい崖出してる」「勝手に観光協会」「フィギュ和」「とんまつり」「仏像マニア」など、考えてみたらすごい数の市場をつくっています。崖に市場があるのかはよく分かりませんが。でもこれらすべてマイブームで終わらせずに、日本全体のブームをつくるところまでつなげています。それも基本1人で。固い会話で出てくるところの0-1と1-10と10-100までを全部やっているといえます。これはヤバイです。

本書はそのノウハウがたっぷり詰まってます。もちろん、みうらじゅんの本なので、ただ読むだけでも腹を抱えて笑える内容ばかりですが、ない仕事をつくっている人から学ぶ気持ちで読んでみると、ビジネス書からは得られない実践知を垣間見ることができます。個人的にも、世の中一般的に流行っているトレンドよりも自分の中でグッとくる自分の変な目の付け所のほうに可能性を見出したりするほうなので、もしかして大きなくくりでいうと思考は似ているのかも?でも、ここまでは突き抜けられません。

3つほど特に「!」と思ったキーワードをあげます。

●自分洗脳と無駄な努力
収集家のみうらじゅんですが、氏いわく「好きだから集めるのではなく、集めていたら好きになっていく」のだそうです。これ、結構わかる気がします。例えば、コーヒーやビールがはじめて飲んで「うまい!」なんていう人は誰もいなくて、まずいと思ってるくせに「これが大人の味だ」みたいに背伸びして飲んでいるうちに味が分かってくるみたいな。

みうらじゅんはボブ・ディランのCDを買ったときに、それが失敗作のCDで「しまった!」と思ったそうです。でも「これは修行だ」と思ってディランのCDを買い続けて苦行を重ね続けた先に(ひどいいわれようだ、共感できるけど)、ディランのすごさがわかる瞬間に出会ったそうです。なので「どこがいいんだろう?」と思っても迷わずに集める、みうらじゅんは旅先で40万円もするいやげモノも「自分が買わずに誰が買う」と自分に言い聞かせて買ったそうです。


●ネーミングは大事
上にあげたブームは全部、本人がつけたものです。王道パターンはA+Bの組合せで、AとBは反対の用語を用いるのがテクニックだそうです。ゆるい+キャラ(キャラ立ちできない=本末転倒)、フィギュア+和(和洋どっち?)など。新しいものをつくるので、名称もジャンルもまだない状態です。それをどういう方向にもっていくかは自分次第であり、認知に一番強く関わるのがネーミングです。カッコいいのって案外、スマートすぎて印象に残らないことが多いですよね。デザイナーはよくやってしまいがちですが、新しいものを認知させるには、このくらいのひねりでインパクトを出さないとダメなのかもです。このブログもデザインストラテジーとかいってないで、もっと泥臭くしないと?

●勝手に流行ってることにする
新しいものはよっぽどのことでないかぎり、人はついてきてくれません。いわゆるキャズム理論でいうところの、アーリーアダプターからアーリーマジョリティ層までを超える難しさのことですが、みうらじゅんは始めからもうマジョリティ層にまで浸透していることにしちゃうのだそうです。これはすごい。どうやっているかというと、コラムのなかで当たり前のような文体で書いたり、人と話すときも「え、知らないの?」というそうです。たぶんそれを言い続けていると、だんだんと認知されていくんでしょう。

ただ、言い続けるだけではダメで、イメージのしやすさと熱い想いが必要だということです。例えば仏像のときは「三十三間堂はウィーアーザワールド状態だ!」とか「弥勒菩薩のポーズはエマニエル婦人に通じる!」とか、ちょっと意味不明ですが、仏像の世界に閉じず関心のない人にもイメージしやすく「なんかこの人やたら仏像を熱く語ってるぞ」という異様な空気をかもしだします。ここまで深く語れると、このブーム(流行ってるかわからないけど)面白そうだからのってみようかという気になるかもしれません。


こんな感じで、みうらじゅんオーラ全開ですが、仕事として見ると、至って地道に丁寧なことをやっている真面目な人という印象すら受けます。たまたま知人に、みうらじゅんのスライドショーの制作に関わっている人がいて、その人から話を聞いたことがありますが、ショーの直前までスライドの細かい修正に対するこだわりに手を抜かず、打ち上げではみんなに声をかけて気づかいをする、とても誠実でフレンドリーな方なのだそうです。尊敬します。

これからもう少し、こっち系の人の本を読む割合を増やそうかなと思いました。

  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A