戦略思考のデザインファームだった:デザインイノベーション

公開日: 2017年12月16日土曜日 デザイン ビジネス ヒト

またfrog design関係の本を読んでしまいました(IDEO関係の本は去年より前に読んでしいたので、別に避けているわけではないです)。今回は創業者の人が書いた内容なので本丸です。アップル初期のスノーホワイトを基にデザイン言語をつくった人であり、僕にとっては(前職の競合である)歯科医療メーカーKaVoのユニットチェアをデザインした伝説の人です。ですがfrog designは多くの人が知っている一方で、彼の名は他の有名デザイナーに比べるとあまり知られていません。その理由も本書に隠れています。



デザインイノベーション
ハルトムット・エスリンガー (著)
翔泳社 2010.05

今年一年、日本語に訳された海外の本を読んで気づいたことの1つに、原題は日本語ではなく大本の言葉(主に英語)で確認しておくべきというのがあります。この本も日本語ではデザイン・イノベーションとなっていますが、原題は

『How Design Strategies Are Shaping the Future of Business』
デザイン戦略は未来のビジネスをどのようにしてかたちづくるか

になるので、この本が単なるデザインのことではなく、ストラテジーとビジネスの関係性の中にデザインが位置付けられている、非常に珍しい位置づけの本であることが分かります。そして、僕も今まであまり意識していなかったのですが、frog designがいかに企業やビジネスという視点を大切にしながら、個人ではなくデザインファームという組織体として、デザインを扱っていたかが垣間見れる内容になっています。

その位置づけを分かりやすく表している一例として、デザイナーを次の4タイプに分けている説明がありましたので、下に書き出してみました。

A.古典的デザイナー(スターデザイナー)
 特徴:論理的であり本能的に魅了する
 代表例:ディーター・ラムス、ジョナサン・アイブ、栄久庵憲司

B.芸術家的デザイナー
 特徴:本能的、メディアに注目されやすいがビジネスとの融通性は薄い
 代表例:フィリップ・スタルク、ロス・ラブグローブ

C.匿名のデザイナー
 特徴:縁の下の力持ち、会社の環境に左右されやすい
 代表例:企業のインハウスデザイナー

D.戦略的デザイナー
 特徴:技術、社会ニーズ、ビジネス機会との融合が得意
 代表例:frog design、IDEO、fuseproject...

AとBは個人名が全面に出るタイプで、CとDは主体が組織になります。一般的に多くのデザイナーはAやBにあこがれを持っていて、それ以外はCのような選択肢しかないと思っていましたが、そこにDという存在があり、10年前くらいからチームワークとしてデザインの活躍が増えてきたように思えます。アメリカ・ヨーロッパに比べて、日本では個人名で活躍しているデザイナーの方が多かったので、そのことになかなか気づけませんでしたが、現状では個人名が全面に出ているデザイナーは少なくなり、チームとして活動しているデザインファームが増えてきていますね。(Takram、チームラボ、ライゾマティクスなど、個人でのタレント性もすごいけど一匹狼ではないのが特徴です)

そういった組織体の先駆け的存在がfrog designであり、創業者のエスリンガー氏は会社を立ち上げたときから、下のようなビジネス的でデザイン会社の目標設定を掲げていたということに驚きです。

・スイートスポットを見つける
・ビジネス意識を持ちクライアントのためになる仕事をする
・トップを目指す貧欲なクライアントを見つける
・有名になる

まとめてみると『他の人がやってないエッジのある会社と最高のデザインができるところだけに注力して一番を狙う』という戦略です。あまり勝つことやビジネスに寄与することを目標に掲げる人が少ないデザイナーの傾向に対して、かなり野心的です(デザイナーの多くは良くも悪くもとてもピュアな人が多いと思います)。こういった思想が、よいクライアントを引き合わせ、影響力あるデザインの実現につながったり、時代に適応したデザインを提供しつづけていられるのだと思います。聞いた話だと、いまfrog designにはプロダクトデザイナーはほとんどいないらしく、工業デザインのシンボル的な存在でありながらも、ソフトやサービスの方にいちはやくシフトした会社でもあるということにも驚きです。



もう1つ驚いたというか意外だったのは、デザインの取組みのプロセスをおおきく下の3ステップに整理していたことです。多くの人はデザインというと2の領域を思い描きますが、その前後の1と3を同じように大事にしています。

1.基礎作業(会社を知る、目標を定める、チームをつくる)
2.創造的なコラボレーション(いわゆるデザイン作業)
3.マーケティング(財務課題をクリアする)

1を何となくのまま2を進めるデザイン活動は多く見られます。また、3はデザイナーの領域ではないと線引きをする人も多いです(僕も含めほとんど)。ですが、その2つを含めてデザイン活動として重視しているのは、単に作品をつくるのではなく、社会やビジネスに影響を与えることを意識しており、すごい戦略的なデザイン組織だなと思いました。

ただし、じゃあfrog designが合理的で商業主義的な存在かというとそんなことはなく、本を読むかぎりエスリンガー氏はとっても情緒的な人物でもあるようです。本人の持論のなかには「感情レベルで好きになれるデザインが理想」ということを語っていて、右脳と左脳の振れ幅がとても大きくて、うまく両方を融合したり使い分けられる人なんだなと思いました。だからこそ、本人の名前が全面には出ないけど、手がけたデザインからは強いインパクトやメッセージが伝わってくるんだと思います。


今の時代になって振り返ってみると、先見性を感じることばかりです。すごい。
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