コンシャスが生み出す経済価値:世界でいちばん大切にしたい会社
僕は、2017年にはじめて北米の都市に行ったときに、WHOLE FOODS MARKETの存在を知りました。ホテルに滞在している間、朝食やちょっとした夜の軽食などを買うために、何度も通いました。その経験を通じて、アメリカに対する食の印象が僕のなかで大きく変わりました。そして、日本に帰ってきたあとに、単に健康に配慮した会社なだけではなく、経済と社会の持続性を両立させてきた多くの人に愛される会社であることを知り、興味を持ち本を読んでみました。世界でいちばん大切にしたい会社・コンシャスカンパニー
ジョン・マッキー/ラジェンドラ・シソーディア(著)
翔泳社 2014.04
昨年から興味を持っているCSV戦略にも、企業の代表例としてWHOLE FOODS MARKETはよく登場してきますが、CSVの本の中で特に称賛されている点は、ユーザーへの提供サービスだけでなく、従業員やサプライヤーなど、会社運営に関わる多くの人たちにとっての配慮が素晴らしいということでした。これを本書では Consious Companyと言っています。
Consiousは日本語にすると、配慮しているとか意識しているという意味合いが近いかと思います。ただ、本書では「意識の高い会社」と訳しているけど、決して意識高い系な会社というわけではありません。(どっちが先に使いはじめたのかはわかりませんが)例えばDesign Consiousというと、デザイン性が高いとか、デザインに対して深い理解と文化が浸透している、みたいないい意味で使われる言葉です。ちなみに本書の原題は
Consious Capitalism
でおそらく『気づかいができる資本主義』とか『高い意識を持った新しい資本主義のカタチ』というようなニュアンスで、金儲け一辺倒ではない社会のありかたを、企業活動を通して実現できる、ということが本書が一番伝えたいことなんじゃないかと思います。
さて、前段が長くなりましたが、先ほども書いたようにWHOLE FOODS MARKETの特徴は、関係するすべての人に配慮をしていることです。その人々のことを本書ではステークホルダーという言葉で表しています。日本人的にはステークホルダーときくと利害関係者というややビジネスライクなイメージが想起されますが、ここでの使い方は、お客さん・サプライヤーや生産者・従業員・株主・商品に関わる自然環境や資源、といった事業に関わるすべてのことを意味しています。で、彼らのミッションは、すべてのステークホルダーを第一に考えてビジネスをする、という極めて良心的な方針です。
それがキレイごとでなくて、実際に顧客に受け入れられて、ビジネスとして成立しているのだから、その仕組みを素直に聞き入れておく必要があります。これはCSVの考えにも通じますが、すべてのステークホルダーに対して誠意ある対応で取組むと、ミクロ視点では現場での人と人との信頼や愛着を持てるといった関係性につながり、マクロ支店ではそれが全体のサイクルとして循環していき社会全体が良い方向につながる、という流れを生みます。それを図にしたのがメモの左側の三角形です。要素としては
・存在目的とコアバリュー:真・善・美・高潔さを備える
・ステークホルダーの統合:関係者へのコンシャスを考える
・コンシャスリーダーシップ:報酬ではなく使命感で取り組む
・コンシャスカルチャー/マネジメント:文化を浸透させる
という4つから成り立っています。書かれていることが何だかとても仏教的というか東洋的な印象で、まるで日本の会社がいってそうな気がしますが、これはマーケティング大国アメリカで生まれた会社というのが不思議です。日本で本当にここまで浸透しているコンシャスカンパニーがどのくらいあるかというと、正直あまり分かりません。いや、いろいろあると思いますが、それがビジネス的なインパクトに表れていない印象を受けます。
WHOLE FOODS MARKETがそれを持続できているのは、ビジネスとして成功しているから、ということを軽視してはいけないと思います。ちゃんと、コンシャスな姿勢がステークホルダーの共感を呼び、その結果、売上や利益につながることを見据えてビジネスを戦略的に捉えて、投資すべき領域とカットすべき領域を計画していく、ということまでがつながっているから、両立できているのではないかと思います。
『何となく社会にいい』というだけではなく『社会や人のためになる取組は需要や好循環を生み出し、それをビジネスのサイクルにつなげる』というくらいまでの戦略性をつくる必要があると思いました。具体的な目標値や行動指針までないと戦略とはいえないので、この本をいい話で終わらせるのではなく、実践で使うためのものとして使っていけるようにしないといけないな、と。