ホテルのUXとデザイン戦略:citizenM

公開日: 2018年2月7日水曜日

仕事で海外出張できる機会があって、一週間ほどアメリカに滞在しました。今年はより自分の目や耳で感じ考えたフィールドワークを重視しようと思うので、日ごろあまり経験ができない発見などをここで紹介してみようと思います。まずは、ニューヨークのホテルです。

citizenM, New York Times Square
https://www.citizenm.com/

このホテルはTakram Podcastで紹介していたことがキッカケで興味を持ちました。citizenMはオランダから始まったヨーロッパにいくつかあるホテルなのですが、たまたま運よく出張先のNYにもあったので、UXを学びにいく目的も兼ねて宿泊しました。

最近のホテルの傾向の1つに、寝るための個室はなるべく無駄を省く代わりに、エントランスフロアを開放して、みんながそこで過ごせるような構成になっています。下の写真はエントランスフロアですが、見ての通り大きなリビングルームのようなインテリアになっており(実際にフロアマップではこの場所をLiving Roomといっていました)、友人同士が語り合ったり、PCで仕事をしている人たちが集っています。僕も部屋にいるのは寝るときと身支度のときくらいで、それ以外の時間はなるべくこの場所にいるようにしています。その方が心地よいから。この内容もここで書きました。



こういったトレンドは最近ではコワーキングスペースによくみられます。自席よりも会話ができる機会を重視する空間構成と、このホテルの考えは共通していると思いますし、何よりも1つの部屋でできる贅沢さは限られるけど、みんなで共有すればこんな気持ちのよい空間で過ごせるんだったら、断然こちらの方がいいと僕は思います。

ファニチャーの構成を見ると、ほどよくつながっているけど社員食堂のようにぐちゃぐちゃにならないよう、レイアウトや雰囲気に変化を加えていることで適度にエリアや機能が分かれています。それでいて全体が1つのよい空間に見えているので、このホテルとてもうまいなあと思いました。UXデザインの考え方から実際のインテリアデザインへの落とし込みまで、一貫したデザインができている好例だといえます。

そしてもう1つの特徴として、コミュニケーションデザインの工夫を紹介したいと思います。このホテルは省力化できるところは合理的になっています。チェックインも端末で行うので、ホテルスタッフは最小限です(1~2人くらいがエントランスにいるくらい)。だけれども、不思議と冷たい印象やさみしさは全く感じません。

1つは先にも述べたように、共有スペースがあるので、スタッフがいなくてもみんなでホテルを盛り上げているような印象があるのが影響していると思います。そしてもう1つは、グラフィックデザインとUXの考え方がとてもユニークで、これによって体験が他のホテルとは大きく違っています。

写真にあるように、ホテルにある色々なモノに言葉が書かれています。どれも始まりは、citizenM says: になっており、いろいろなモノが自分に対して語りかけてくれるような気持ちになります。高いホテルにありがちなよそよそしい感じはありません。ホテルの名前がcitizenなので、このホテルにいる人を市民として、対等な関係性を感じさせます。ちなみにホテルの人に聞いてみたところ、citizenMのMはMobileのMで、色々な土地を移動する旅行者にとって自分の居場所やコミュニティーを感じられる意味がこめられたネーミングだということです。



Takram Podcastでも紹介されていましたが、面白い仕掛けの1つに、部屋にシャンプーが2種類置かれています。2つの違いは、時差ボケに対して1つはぐっすり眠るためのAMシャンプー、もう1つはこれから元気に夜遊びにいくためのPMシャンプー、というように用途が分かれています。香りや機能別ではなく、体験別で用途を分けていることで、宿泊客はスタッフがいなくてもホテルとコミュニケーションをしているような気持ちになります。



もう1つ感心したのは、ルームクリーニングしなくてもいいことを伝えるドアノブにかけるサインです。これを提示することによってホテルはコストが抑えられますが、それを伝えるだけのものではなく、その分をアフリカの地方の人達に向けて自転車に寄付しますよ、といったことが書かれています。ただ省力化するのではなく、社会のためになる取組みへの参加につなげているのも、宿泊客としては協力したくなる、気持ちをうまく考えているなと思いました。すばらしいアイデアです。



僕が実際に滞在した感想としては、今までに泊まった他のどのホテルよりも心地よく、たぶん高級ホテルに泊まるよりもこちらを選びたいなと思えるほどでした(高級ホテルに泊まったことないですが)。きっと多くの宿泊客が僕のような気持ちを人に紹介したくなることで、citizenがどんどん広がっていき、結果としてビジネスにつながっているのだろうと思います。こういった気持ちにさせるのをラグジュアリーやハイブランドといったアプローチではなく、UXで(コンセプトからディテールのデザインまで丁寧に)実現しているというのは、ただただ関心します。素晴らしい!

機会があったらぜひ泊まってみてください。日本にはないですが、ヨーロッパとアメリカを中心にいくつかあり、今後増えていく予定だということです。
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