スペキュラティブデザインと建築の実践:シアトル中央図書館
去年、スペキュラティブデザインの文脈の中でチラチラ名前を出していた建築家のレム・コールハースですが、彼が手掛けた建築が日本にほとんどないこともあり、これまで一度も実物に入ったことがありませんでした。ですが、今回運よくシアトルにいく機会があったので、彼が率いるOMAの代表の1つでもあるシアトル中央図書館に行ってみました。The Seattle Public Library, Central Library
設計:OMA
ロケーションは都市の中心部にあります。入るとまず、すごーく広い空間がひろがります。周りが全面ガラスなので(でもフレームが格子状だからスケスケではなく恥ずかしい感じはない)開放的です。また土地が坂道なので1階と3階の両方に入り口とエントランスがあり、公共建築なのでこの『開かれた感じ』というのはとても大切な気がします。(人がいるところは写真が撮りにくい雰囲気だったので、イメージで想像してください)
ですが、建物の中はつながっている階と分断されている階の両面があります。1階は話題の図書や洋書(日本語の本も割と充実していた)、2階は1階と3階をつなぐ階段状のイベントスペース。3階はメインエントランスとして、カウンターや雑誌などのほかにカフェなども併設されています。4階は3階のロフト的な感じで吹き抜けの上階部といった感じです。ここまではつながっているのですが、5階からは上に上がるとガラッと雰囲気が変わります。色味やレイアウトが全く異なります。
5階より上は専門図書が機能的に並べられており、下の開放的な感じとは違って、規則的で狭い感じです。また階ごとに大きな違いはないことから、フロアはすべてゆるいスロープでつながっています。歩いているといつのまにか次の階に行ってしまいます。(この手法は安藤忠雄が手がけた表参道ヒルズでも見られます)下のフロアとは訪れる客層や目的が違い、専門図書の分類には逆に明確な区分けはないから、このようにしたのかなと。
このように階ごとによって微妙に違ったり大きく違っていますが、それをつなげているのが近代技術のエレベーターとエスカレーターです。建物の外観はけっこうボコボコしているので、フロアごとに空間構成は違っているのに対して、それを真ん中にあるエレベーターがずどんと縦1本につなげていることで、迷路のように迷わず行き来できるようになっています。一方エスカレーターはエリアの違う階をつなげる演出的な用途で(この黄色がそんな感じ)、乗っているとだんだんと違う世界になってくぞー、という感じにさせます。これがおそらくOMAの醍醐味、テクノロジーと思想をうまく融合させているところじゃないかなと思います。
そんなように見ていくと、彼らが都市の真ん中に位置する公共性の高い図書館というテーマに対して、どのようにリサーチをしてそれを建築で表現したか、の光景が思い浮かべられるようになります。スペキュラティブ・デザインのことを考えていなかったら、たぶんここまで考察を深めることはできなかったので、なんだかタイミングよくシアトルに訪れることができて本当にラッキーでした。デスクリサーチとフィールドリサーチの両立の大切さを改めて感じた体験でした。
ちなみにディテールの話ですが、色使いや太く大きいフォントの使い方はオランダっぽいなーと思いました。個人的には好きです。