ギラギラしていない起業家:ザッポス伝説

公開日: 2018年5月21日月曜日 コミュニケーション ビジネス

ザッポスは日本にない会社なのであまりなじみがないですが、ビジネス系のケーススタディとして顧客満足度・従業員満足度などでよく取り上げられている会社です。ビジネスとしては靴のオンライン販売で、現在はAmazonが買収していますが、ザッポスとしての企業文化は独立性を保ったかたちでビジネスを続けています。本書もビジネスの話がメインではなくて、とどうやって企業文化をつくっていくか、ということがCEOである著者のトニー・ウェイのキャリアとともに語られています。



ザッポス伝説
トニー・ウェイ
ダイヤモンド社 2010.02

これまで何人か超すごい起業家の人の本を紹介しましたが、それらは誰かライターやジャーナリストが取材を通して書かれたものです。それに対してこの本は自分で書いたものなので、一人称の目線で物語が進んでいき、読み手も感情移入がしやすい構成になっています。あと、文体が敬語(です、ます)になっているので、この本は物腰柔らかい印象があります。日本語は翻訳ですが、原文もきっとこのようなトーンなのかなと思える、フレンドリーでやさしい印象は内容からも伝わってきました。というようなところが、他の起業家の紹介本とは少し違うかなと感じました。

構成は大きく3つです。

1. 幼少期からザッポスに関わるまでの起業家としての歩み
2. ザッポスの成長にともなう顧客や社員との関わり
3. 会社を続けるうえで大切に考えていること

生い立ちについては他の起業家と同じように、学業優秀で(アメリカの名門大学にすべて受かったとのこと!)ありながら、子どものころから商売をしてみたり、学校内での活動を行ったりしています。ただ1つ印象として、他の人にくらべてガツガツ感やギラギラ感があまりないところに違いを感じました。例えば大学のときにテレビにハマったり、最初に勤めた会社をラクにこなしていたこととか。憶測ですが、それは彼のルーツがアジア系(台湾の家系)だからなんじゃないかと思います。僕は何となく同じアジア人として、共感できるところがあります。

もう一つ彼が他の起業家と違うところは、売上やビジネススケールよりも人間関係を重視していることにあります。ザッポスに関わる前に彼は友人と1つのビジネスを立ち上げていますが、お金が絡んでくると色々な人間の本性(利己的な行動とか)が見えて、それにショックを受けたそうです。最初の会社を立ち上げたときはワクワクしていたのに、気づいたら最後は早く終わらせてしまいたかった。この違いを経験して考えを深めて、今のザッポスがあるということです。

その後お金はあったので、サンフランシスコを拠点にして人が集まる場づくりをします。その時にザッポスの前身にあたるShoesiteの事業企画に出会い、ベンチャーキャピタルとして支援を始め、経営に関わっていきます。オンラインから在庫を持つビジネスモデルにシフトしたことで売上を大きく伸ばしていきます。そして企業の成長過程で一番投資をしてきたのが企業文化であり、それは前職の苦い経験があったからこそ大事にしてきたのだということです。



ザッポスがAmazonやテスラとは1つ大きく違うのは、採用に人間性を重視している点です。自分の能力を知らしめるための猛者が集まる会社ではなく、ザッポスの文化にフィットする人(顧客第一で自分の判断で行動できる人)だけを仲間に迎えることを重視しています。本の中では社員のメッセージがたくさん紹介されていて、いかに自分の会社が好きであるかが伝わってきます。

ザッポスの企業文化の姿勢を表す象徴的なものの1つが、コールセンターをアウトソースしないで、お客さんと接することのできる貴重な機会として大事にしていることです。一見、靴とは関係のない話であっても誠実に対応することによって、お客さんからの信頼を得つつ社員への心がけ的な役割も持っています。

こういった会社をつくっていく動きも、彼のルーツがアジア系であることがどれほど影響しているかはわかりません。(本人は生まれもアメリカでルーツの話は一切書かれてなく、これは完全に自分の憶測です)最近の勢いのある起業家の多くが猛禽類(タカやワシなど)に例えられるのに対して、彼のようにギラギラしていない経営が今後増えてくると嬉しいなと思います。アメリカではあまりないかもしれませんが、日本の会社だったらあっても不思議ではないので(目立たないけどよい会社はきっとたくさんあるはず)今一度、自分の足元を見直してみようかなと思いました。

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