社会課題のために成長する会社:貧困のない世界をつくる

公開日: 2018年5月23日水曜日 ソーシャル ビジネス

著者のムハマド・ユヌスさんは、マイクロ・ファイナンスで有名なグラミン銀行を立ち上げた人で、先進国の理論とは違った新興国での経済活動として注目を集めています。前に紹介したCSVの考え方を、学者が理論化するよりもずっと前に実践している人でもあります。本書はグラミン銀行の立ち上げの経緯から、グラミングループへと拡大していく中で社会貢献している取り組みについて紹介されています。



貧困のない世界をつくる
ムハマド・ユヌス(著) 猪熊弘子(訳)
早川書房 2008.10

グラミン銀行はバングラディシュにできた普通とは大きく違う仕組みの銀行です。銀行は通常お金をある人に対してお金を貸しますが、グラミン銀行はお金のない人に対して無担保で借りられます。無担保である代わりに5人1組の相互関係をもって、一般の銀行よりは少額のお金を借りる仕組みで、お互いがお互いを信頼しあうことで成立し、性別で見るとなんと97%は女性であるということです。この仕組みはマイクロファイナンスといわれており、現在はこの方法に対して色々な指摘もあり、5人1組が必ずしも有効ではないという考え方もあるようですが、少なくとも当時は他に類を見ない画期的なサービスでした。

なぜこのようなサービスが出てきたのかを理解するために、背景を知る必要があります。バングラディシュはアジアの中でも最貧国の1つであり、貧困から抜け出せない人が多くを占めています。彼ら彼女らは、カゴをつくって売ることで1日わずか2セントの儲けを得ますが、この状況ではその材料である竹を入手することさえもできません。そこで地元の高利貸しが弱みにつけこみ、高い利息と不公平な取り決めでお金を貸しますが、この状況はまるで奴隷のようで、働いても高利貸しにお金がはたまり、自分の手元にはほとんど残らないという、日本では考えられない悲惨な現実があります。

そこで元々は大学教授であったムハマド・ユヌスさんが銀行に話をしてみても、銀行側とは価値観も視点もまったく合わずに分かり合えない溝があることに直面し、だったら自分で始めてみようと思い、立ち上げたビジネスです。先進国から見るとほんのわずかのお金であっても、その元手によって収益を上げる仕事が行え、グラミン銀行の取組によって64%の人が貧困ラインを超えることができたという奇跡を成し遂げます。



著者の取組みは銀行だけに限らず、ファンド、モバイル(電話)、ヘルスケア、教育など、ファミリー企業は多岐にわたりますが、興味深い事例の1つとして、ヨーグルトのメーカのダノン社と取り組んだ、栄養食品をバングラディシュの子どもたちに提供するというものがあります。ダノン社にとってもバングラディシュへの市場にアプローチする方法がなかった状況をグラミングループが連携することで、社会課題への取組と経済を両立した活動にすることができています。

グラミングループ企業の活動は、慈善事業や社会支援ではなく、社会課題と利益を両立するハイブリット化の活動を思想としています。なので成長やテクノロジーの進化を肯定的に捉えているところが特徴的で、CSVの考えを体現しているように思えます。以下は彼の考えの一部です。

・共通テーマはバングラディシュの特に貧しい人々の暮らしを改善すること
・大事なのは本人の経済活動ができること(手助けではなく自立を支援する)
・ソーシャルビジネスも発展・向上しつづけないといけない(停滞は衰退につながる)
・ITは貧しい人々を助ける力がある(携帯によって行動の範囲と機会が増える)

ちょっと前までBOPの取組みが注目を集めていましたが、最近はあまりこの言葉を聞く機会が少なくなった気がします。でも、社会課題の考え方(高いニーズ)や市場の可能性(多くの人)については変わることなく重要であり、この難しい挑戦をどう成果につなげていくかを考えるきっかけが、グラミングループの取組みに多くのヒントがあるのではないかと思います。もし自分がこのようなテーマに関わることになったら、まずは1にも2にも現場に入って現実を直視することから始めつつも、一方でそれをどう経済活動につなげていくか、というハイブリッドの思考が求められることが想像できます。そこにデザインストラテジーとしてできることは多くあるのではないかと思います。

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