東洋の思想とマーケティングの理論と:MUJI式

公開日: 2018年5月25日金曜日 ビジネス マーケティング メソッド

無印良品のすばらしさは、日本に住んでいると何となく分かち合えるもので、特にデザイナーの人同士だと、あうんの呼吸でMUJI的な思想や価値観を共有し合えたりします。でも、これが海外で自分とは違った職種の人に対してだと、同じようになれるかはあやしいです。この根底にはおそらく無印には日本的・東洋的な思想感にあって、東洋的な考えはロジカルには説明しにくい傾向があるからだと思うのですが、本書の見どころはそれを西洋的な文脈から解説・図説しているところです。



MUJI式 世界で愛されるマーケティング
増田 明子 (著)
日経BP社  2016.11

話が少しそれますが、無印良品については、デザイン・生活者・経済などの観点から解説された本は数多く出ており、その幹となる思想について一番よく表れているのは、2001年~2008年まで社長を務めた松井さんの『無印良品は、仕組みが9割』だと思います。あまりデザインに偏りすぎていないので、僕はフラットな視点で理解することができました。ですが、マーケティングの観点から語られた本で僕がなるほどと思ったのはこれまであまりありませんでした。

それはおそらく、西欧の文脈に基づいたロジックで説明するのが難しいからではないかと考えます。もし4Pとかブルーオーシャンとかの文脈で語られても、なんかそれは無印の深いところを理解していないように思えます(想像ですが)。それを本書はあえてマーケティングで使われるメソッドやフレームワークなどを用いて説明しています。外部の人がこれを書くと勝手に解釈したように感じてしまいそうですが、著者は無印のマーケティング部門で実践していた人なので、リアリティと裏付けの重みがあります。

読んでて興味深かったのは、既存のフレームワークなどを使いながらも従来の定説とされていたロジックと逆のことをやっているのが無印だ、という分析です。例えばブランド戦略について、普通はブランド価値を高めて顧客に高いロイヤリティを求めるものですが、無印はそこそこでよい(これでいい)という考えだから、多くのお客さんに受け入れられて、結果として売上にもよい影響を与えていると整理しています。この考えをマーケティング理論抜きに説明すると理解しがたいものになりそうですが、ベースにマーケティングの定説を用いていることで普通と違う(=すごい)という伝え方ができるのではないかと思います。無印の説明をするときに図をつかっちゃダメだと勝手に思っていたのですが(無理に分けるのは東洋的な思想ではないから)でもできるんだと。勉強になります。



こういった内容が本書ではたくさん紹介されています。あえて広いマーケットを狙い選択と集中はしないとか、エクストリームではなく普通のユーザーに注目するとか。マーケティングの理論でいうと、こういった取組みはダメな企業戦略の見本のようなはずなのに...なぜか国内外で成功している。何ででしょう?

私見ですが、根底に日本的・東洋的な思想があるからではないでしょうか。競争主義ではなく全体の調和を大切にして、一見華やかでない素朴なことに普遍的な価値を見出す、といった考えがそもそものマーケティングの姿勢とは少し違っていますが、20世紀から21世紀にかけてこの東洋的な考えが前よりも浸透してきたように思えます。なので従来のマーケティング戦略では超えられない壁のヒントは、無印良品の中に見つかるかもしれません。

1人の日本人として無印良品の考え方はとても共感できますし尊敬します。同時にロジック一辺倒ではない考え方がこれから大切になってきているなかで、この考え方と理論による説明の接点を結び付けて整理したり伝えたりできることが、今後のデザイナーやマーケティングで大切なセンスではないかと考えています。最後に個人的に特にグッときた、松井社長のあと2008年から社長を務めた金井さんの言葉を紹介します。

「無印の思想を理解してくれる人は10人に1人くらい。普通の会社なら1つの商品を20-50人に売るよう販促をかけるけど、無印は1人の理解してくれた人にアイテムを増やしていき、結果として男女や年齢を問わず広がっていった」

今後も無印の動向から目が離せません。
  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A