Cool Head, but warm haertなアスリート:諦める力 ほか
公開日: 2018年5月31日木曜日 コミュニケーション ビジネス
ひょんなことから少し前に仕事つながりで幸運にも、為末大さんにお会いすることができました。為末さんのことは、もちろん元陸上選手(ハードル走者)として知っていましたが、Twitterでの発言がどれをとっても的を得ていて、たびたびネット上で注目されているのをよく見ていたので、なんでこんな考え方ができるんだろう?と前から興味を持っていました。が、あらためてしっかりと為末さんの本を読んだことがなかったので、この機会に全冊は網羅できていませんが、数冊分を読んでみました。・インベストメントハードラー 講談社 2006.07
・日本人の足を速くする 新潮社 2007.05
・走る哲学 扶桑社 2012.07
・走りながら考える ダイヤモンド社 2012.11
・「遊ぶ」が勝ち 中央公論新社 2013.05
・諦める力 プレジデント社 2013.06
こうしてみると出版社が全部違っている。引く手あまたなんでしょうね。今回読んだ中で一番新しいものは2013年と少し古いのですが、その後2017年までに新たに6冊ほど出ているようです。すごい。今回はこの中からと特に興味深いなと思った3冊を取り上げてみます。
・・・・・
始めての著書が”インベストメントハードラー”。陸上選手なのに、走ることと投資の2つをテーマにデビュー作として出しているところが、すでにただならぬ思考です。この2つに共通することは、『結果には必ず原因があり勝つためには徹底的な自己分析が必要になる』=なので目先に一喜一憂しないことが大事、ということが総論として述べられています。世の中に多くあるアスリートから学ぼうとするビジネス書の目的は『勝つためにはどうすればよいか』ということなんだと思いますが、本書はただアスリートの行いをビジネスに置き換えているのではなく、本人がスポーツとビジネスの両方の実践を通じて、根本の要因を捉えているところが、重みとして大きく違います。
”「遊ぶ」が勝ち”、はホイジンガという歴史研究者が書いたホモ・ルーデンスという本を題材にあげて、遊ぶことの大切さをスポーツの取組みと掛け合わせて紹介している本です。遊びとは「努力を実現するために人に先天的に与えられている機能」であり、取組みの中に遊びの要素をいかに取り入れられるかによって、練習で上達したり、文化がつくられたりするカギであるということです。為末さん本人はストイックな人という印象が強かったのですが、こういったことを日々考えて試行錯誤ながら練習をしていたことを知り、きっと考える時間の使い方が圧倒的にすごく濃い密度だから、この習慣がtwitterにも表れているのかなと思いました。
そして、今回あげた本の中で為末さんの思考が最も象徴的に表れているのが、”諦める力”だと思いました。アスリートなのに諦める、これだけ見るとなかなか議論を呼びそうなタイトルですが、本書を読むとその考え方に納得できます。諦めるとは、
諦める=明らめる=あきらかにすること
であり、つまりよく理解して自分を知ること。為末さんは、自分がどんなに努力してもカール・ルイスの生まれながらの環境と身体的な才能には勝てないことを高校生の時に知り、勝ちやすいところを見極めて400mハードルに転向します。ただ、ここで誤解してはいけないのが、
手段は諦めてもいいけど、目的は諦めてはいけない(それは単なる逃げ)
ということです。無理だと思ったから辞めて別のことをするのではなく、自分が目指していることに対して、今のやり方(アプローチ、到達方法など)をよく見て(インベストメントハードラーでいうところの、徹底的な自己分析)、それで明らかにして、別のやり方があるなら諦める、という思考でものごとを捉えていくのは、スポーツの世界に限らずすべてにいえることだと思います。こういったことを実体験をして、かつそれを何となくで過ごすのではなくとことん自分と向き合って考え抜いたことで、このような思考が身についていったのだと思いました。毎日を大事に生きていることも感じました。本当にすごい人です。自分も少しは見習おう。。。
為末さんをひとことで表すと、Cool Head, but warm haert(考えは冷静に、でも熱い心で)があてはまると思いました。これはビジネスの世界でも知られた言葉で(僕はNPOに取組んでいる知り合いから教えてもらいました)。もちろんアスリートなので勝ちたいと強く思う心がある一方で、どうやって勝つかという冷静な考え、この2つが両立できているから、スポーツの世界でもビジネスの世界でも幅広く共感を呼んでいるんだろうなと思いました。
ちなみに実際にお会いして少しだけ話をした印象としては、すごく色々なことに好奇心を持って、色々な分野を幅広く知っていて、技術などの知識についても詳しかったですが、決して高尚な感じではなく、対等な関係性のなかでカジュアルにお話しさせていただきました。まったくもって尊敬しかありません。新しい本も読まさせていただきます!