これこそデザインリサーチ(すごい!):BALLPARK

公開日: 2018年6月29日金曜日 クリエイティブ マーケティング リサーチ

2年ほど前、スポーツに関わる取組みをしていたキッカケで、最近の横浜ベイスターズが盛り上がってるということをどこからか知り、ホームページを見たら本が出ているというので手に取ってみました。読んだのは3冊ありますが、そのうちの1冊が写真集という位置づけで、でも選手やベイスターズの球場のことが載っているわけではなく、アメリカの色々なスタジアムが写真で紹介されているという、ちょっと変わった本です。これを読んで衝撃を受けました。率直な感想は、『これが僕の目指したいデザイン・リサーチのあり方だ』ということです。それがこの、BALLPARKという本です。



BALLPARK
池田純・横浜ベイスターズ
ダイヤモンド社

まず背景についてですが、この本をつくったベイスターズはプロ野球球団の中でも赤字が続き2011年までは観客数も少ない状態でした。それが、この著者である2012年から2017年まで球団社長だった池田さんが打ち出した施策によって、経営はV字回復し観客数も95%を超えるまでの人気となり、12球団で最も高い成長をとげています。そんな改革を遂げたヒントが実はこの本に隠されています。

次に本のタイトルであるBALLPARKとは何かについて。野球場は一般的にはスタジアムといわれますが、スタジアムが野球をする人と見る人のための場という意味合いに対して、ボールパークは、野球(ボール)を通じて様々な人が集い憩う場(公園=パーク)という意味をもち、より対象が広い言葉です。これをもう少し広く解釈すると、野球場と地域がつながる存在であることを表していて、アメリカではスタジアムよりもこのボールパークの方が浸透しているそうです。

横浜ベイスターズが成長をとげた理由は端的にいうと、野球場の存在をスタジアムからボールパークに変えたことです。具体的には、野球大好きな人以外の横浜市民も対象にすることで、地域に根付き広く受け入れられたことが大きな要因です。ちなみに結果も伴い、ファンの盛り上がりも高まりチームにも活気が出て(相関関係は定かではないですが)ずっと5-6位の状況が続いていたのが2017年度はリーグ優勝を果たします。こういった成功へ導くためのガイドをアメリカのボールパークから学んだ、ということがこの本から感じ取ることができます。

本書の構成はシンプルです。9+1つのキーワードを設定して、各キーワードに基づくボールパークの多くの風景の写真とたまにインタビューなどが差し込まれ、最後にそれを受けてベイスターズはどう考えるかという見解がまとめられています。この9+1の構成がうまくて、1番バッターから9番バッターで10個にまとめています。なのでおそらく1番は先頭で入りやすく4番が一番強調したいところという、それぞれの位置づけを意味しているのかと思います。

例えば出塁率の高い(=分かりやすい)1番バッターのキーワードは"COLOR"です。目にパッと入ってインパクトを与える色をボールパークではどう使っているか。テーマカラーをグッズ等につかうのはもちろん、施設の色々なところにも(例えば配管をすべて赤に塗るなど)徹底している場所もあれば、何でもかんでもテーマカラーだけでなく、歴史に紐づいた色(例えば街のレンガの歴史をボールパークにも溶け込むように取り入れるなど)が伝わる写真を色々な角度から切り出しています。言葉はほとんどないけど写真でその大切さを感覚的に理解することができます。そしてそれを受けてベイスターズはどう考えたか。例えばこれまでの観客席シートはベージュの色など一般的なものが使われていたけど、それを青に統一させて、港町の歴史を感じる色の使い方を捉え直したという施策がなされています。



僕はプロジェクトの対象となる現場や他業界をリサーチする機会が多いですが、洞察力はもちろんのこと伝え方によってそのリサーチの成否が決まるといってもいいくらい、伝え方が大事です。多くのリサーチ会社は割とロジカルに文章を中心にして図でまとめたりして、写真は補足説明として使っていることが多いのですが、こういった写真集のような構成でリサーチをレポートできるということに驚きましたし、感動しました。特にユーザーの気持ちに訴求する領域は理屈だけで伝えられたり理解できるものではないので、こういったアプローチは目指すべきデザイン・リサーチの1つのあり方だと思いました。世の中でデザイン・リサーチの実践例が載っている本はあまり多くありませんが、その中でこの本は僕にとって貴重な教科書になります。

一方でビジネスは感性だけで完結できるものではないので、実現のためにはもちろん左脳的な要素も必要になってきます。著者の池田さんはマーケティングがベースにある人で、もう一冊の本にその内容が紹介されていますので、次はそれを紹介しようと思います。
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