感性を大事にするマーケティング:空気のつくり方

公開日: 2018年6月30日土曜日 コミュニケーション マーケティング

前回、BALLPARKの本をデザイン・リサーチの観点から読み解いて紹介しましたが、今回はそれをどうビジネスにつなげるかという観点で書かれた本を紹介します。この本はベースがマーケティングにあるのですが、堅苦しい理論ではなくて、感じるということが全面に出ている変わった本です。何せタイトルが『空気のつくり方』なので、そこからして分析的な感じが出てくる気がしません(が、ちゃんとそういった面も出てきます)。



空気のつくり方
池田純
幻冬舎 2016.08

日本では「空気を読む」という言葉がよく使われますが、最近はこの言葉が日本独特でどちらかというとネガティブに捉えられることが多い印象を受けます。そのくらい日本の外から見たら分かりにくい謎のものなので、分析と体系化を得意とするマーケティング理論とは相反するような言葉にも思えます。ですが、よく考えてみると、空気を読む→全体の気配を感じる→大局観を読み取る→次の兆しを捉えて施策を打ち出す、というように変換もできるかと思い、こうするとマーケティング的な視点で捉えることができるようになります。なので、「空気をつくる」は言い換えると、次の変化を起こすための兆しをユーザーに伝える、ということなのかと解釈します。

概念はとても日本的で感性的な視点ですが、そのためのロジックはとてもマーケティング的です。まずは現状を把握するというところで、世の中の空気(Customer)を知る、競合(Competitor)を知る、自社にある流れ(Company)を生み出すという3C的な観点を、空気で捉えています。ここで空気という言葉を使っているのは、数字だけで語られないことであったり、そもそも膨大な指標がある中からどの指標が重要なファクターになるかを見出すには理論だけでは見えないことがあり、そこで空気を感じる必要があるということです。空気の感じ方を「センス」といい変えることもできるかと思いますが、これを感じられるかどうかは実践や色々なものを見てきた経験に成り立っているということなので、マーケティングは理論だけではつくれない、ということの主張が受け取られます。

そのうえでコミュニケーション(=施策)を打ち出します。ここでも大事なのは空気をつくれているかどうか?ということになります。潜在的にユーザーが求めていることは何で、彼らの賛同を得て、次につながる動きをつくれるかどうかは、空気をつくる施策になれているかどうかということです。横浜DeNAベイスターズは「アクティブ・サラリーマン」という新しいターゲットユーザーを設定しました。おそらく位置づけとしてはこんなところだと思います。

・熱狂的な野球ファンではないけど、盛り上がるのが好きな人
・会社帰りにBALLPARKに寄れる、横浜に接点のある人
・友達や家族と一緒に楽しみたい人(女性や子どもも含む)

そして彼ら/彼女らに向けたコミュニケーションをつくりますが、2つの視点がポイントになるようです。1つは徹底した数値化による効果測定で、データに基づくマーケティングを行うこと。もう1つはブランドやストーリーを大切に育てていくこと。この真逆な性格とも思える2つを両立していくことが大切なようで、以前紹介したスノーピーク等でも似たような話があったかと思います。

そしてこのベースの考えに基づき、仲間同士で盛り上がれる観客シートや、練習風景などを見られるオープンゲートや、特別インベントなどの施策を打ち出し、5年間でV字回復を果たしてチームも強くなっていくという結果につながっています。



マーケティングというとデータ分析に基づくアメリカ的な印象が強いですが、「空気を読む」という日本的なアプローチでマーケティングを行うことでも、結果につなげることができるんだなということに感心しました。特に利便性や機能で判断されるだけではない、エモーショナルな要素をつかんで人の行動を変えていくマーケティングアプローチは、デザインとビジネスをつなぐ視点で、特にこれから合理性だけではない価値観が大切になってくることを考えると、しっかりと学んでおく必要があるかと思います。

ちなみに著者の池田さんは社長に就任したのが35歳で成果を出し退任したのが40歳。はやくから新規事業や事業再生に関わっていくなかで身に着けたものなのだと思います。すごい!
  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A