クリエイティブをマネジメントする:デザイン組織のつくりかた

公開日: 2018年6月28日木曜日 デザイン ビジネス メソッド

つい最近のことの様でもう結構前になるけど、海外のデザインファームが大手企業に買収されるという動きがありました。(現在は有名どころは一通り買収が行われた模様)その中で象徴的に扱われたニュースの1つが、Capital OneがAdaptive Pathを買収したというものでした。Catipal Oneはアメリカの大手金融会社で、一見デザインとは遠い存在であるUXデザイン系の会社とパートナー関係を組んだということが、象徴的な出来事だったようです(ちなみに僕はどちらの会社も知りませんでしたよ、さも知っているように書いていますが)。で、本書はそのAdaptive Pathに所属していた著者が書いた本です。



デザイン組織のつくりかた
ピーター・メルホルツ、クリスティン・スキナー(著)安藤貴子(訳)長谷川敦史(監)
BNN新社 2017.12

この本はなかなか難しいです。文体は割と平易で読みやすいのだけど、デザイナーにとってはビジネス観点でデザインのことが語られているので、いまいちイメージがつきにくい。一方ビジネスパーソンからすると、デザイナーって存在がそもそもよくわかりにくいのに、それを組織として捉える難しさやデザイナーにもいろんな職種があったりするなど、謎の世界が存在するような印象を受けるかもです。でもビジネスとデザインが融合している昨今、こういった世界があることをよく理解しておくことは重要だと思います。

入りやすいところから書くと、デザイナーにとって心強く分かりやすい一例が紹介されています。もとappleのヘッド・デザイナーで現在はAmmunitionのロバート・ブルーナーが、何かのイベントのプレゼンテーションで「デザインはプロセスだ。イベントではない」ということを言っていました。この言葉の意味は、デザインは開発工程の一部だけに関わるのではなく、企画から製造販売まで一連のすべてに関わっているということです。これって何気にすごいことです。メーカー経験のある人だと共感できるかもですが、他の部門の多くはある工程だけや特定の商品群だけに関わっているのに対して、デザインは工程も商品群もたくさん関わっていたりします。なので経営層が会社の全体像を把握したいときは、実はデザイン部門にいけば一番情報が得られるのだとか。(以前と今の職場でそれを実感する出来事があったので僕は理解できます)

このことから学びとなるのは、デザインをスタリングや実装開発の部分だけに限定すると一機能の組織になるけど、企画・マーケティング・販売・サポートといった全体に関わると、それは経営そのものであり、経営資源として高い価値を持つ組織であるといえます。職人としての専門家集団であることも1つの道ですが、デザインを組織として捉えて考えていくと、経営との関係性が強くなることが分かります。

そのうえでデザイン組織をどう運営させていくかについてが書かれています。デザイン系の本ではよく目にする、デザイン組織の風土としてマインドや価値観を重視することが大切、といったことがこの本でも紹介されていますが、ただ創造性を高めるためのことだけではなく、どう効率的に創造性を高めるか、そのために必要になるマネジメントについても書かれていることがポイントだと思いました。例えば役割や権限を明確に示したり、多角的な視点で進めていけるための環境だったり。マネジメントというとクリエイティブの対義語みたいな感じで使われることが多いですが、組織として取組んでいくためにはクリエイティブのためのマネジメントが必要であることがよくわかります。優れたデザインファームはディレクタークラスの人がクリエイティブをうまくマネジメントしている傾向があるのも感じているので、これについても僕は納得性があります。

そしてチーム編成についても書かれていますが、ここから難しくなっていきます。多くのパターンは、企業の中のデザイン部門に位置付けられる『集権的社内サービス』型か、プロジェクトメンバーの1人にデザイナーがいる『分散的埋め込み』型です。これはどちらも一長一短なところがあると思います。日本のメーカーにいるインハウスデザイナーの多くは集権的社内サービス型ですが、権限が限られるのでデザインの価値を社内の中で高めていくことが難しい傾向があります。一方で分散的埋め込みにシフトした会社もいくつかありますが、デザインのチーム力が活かしにくいので、見聞きする話では、うまくいっている会社は少ないのではと思います。

そこで理想的なのは『集権的パートナーシップ』だということです。どういうことかというと、各工程(例:検索チーム、商品ページチーム、レビューチーム)の中にデザイナーがそれぞれ入りながらも、組織としてはデザイナーで集まっていることです。これは全体に関わることができながらも、デザイナー同士で共有し合えることが利点です。そんなことが実際に可能なのか自分は経験したことがないのでわかりませんが、2000年以降で大きくなってきたIT系の会社とかに、おそらくこの体制が見られるのではないかと予測します。(経営がデザインの価値を理解しているかが大きい?)

そして、理想の体制をつくるための色々なフォーメーションを紹介していますが、これは正直、日本とアメリカの文化差で大きく違うと思います。というのも、アメリカはデザイナーの中でも個人の肩書が割とはっきり決まっていますが、日本ではそれほど限定されていなく割とオールラウンダーであることを求められるからです。僕も(自称)デザイン・ストラテジストとして理想的には戦略立案やデザインリサーチを専門にしたいと思う一方で、具体的なUXやスタイリングを含めたフィニッシュのデザインにもそれなりに携わっています。日本の組織はそこまでシステマチックに「今日はこのプロジェクトで明日は別の...」みたいなことはしないので、どちらがいい悪いはないと思いますが、デザイナーだから何でもできるわけではなく、その人の得意分野やこのフェーズで求められている専門スキルは何か、ということを理解しておくことは、組織的に取組むうえでは大事なことだと思います。



海外では50人以上の人材を持つデザインファームはたくさんあって、それらの会社は大きくなるにつれてこのようなことを考えてきたのだと思います。一方、日本では組織体として大きなデザインファームは比較すると少ないです(どちらかというと以前は有名なデザイナーが全面に出ることが多かった)。でもこれからは、企業側がどのようにデザインを経営資源として活用できるかの理解は必要ですし、一方でデザイン組織側はプロセスとしてデザインが経営全体にどう寄与できるか、そのためにどういった組織運営で取り組んでいくかを考えることも必要です。

21世紀のビジネスにデザインが不可欠だとした場合、まず大切なことはお互いが理解しあって取組めるかどうかだと思います。歩み寄り、大事です。

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追記:デザイナーの肩書きをテキストで書いてなかったので下にまとめます。

・プロダクトデザイナー(ハード、UI、デジタルプロダクトも含む)
・コミュニケーションデザイナー(マーケティングと接点多い、言葉がツールの1つ)
・ユーザーエクスぺリンス・リサーチャー(ユーザー理解をするのが役割)
・デザインプログラム・マネージャー(ファシリテート、調整などを行う立場)
・コンテンツストラテジスト(主に広告系、ブランドやコピーライティングを扱う)
・サービスデザイナー(UXよりビジネス視点が入ったり調整要素が強い)
・クリエイティブテクノロジスト(デザインエンジニアに近い)
・デザイン部門長(デザイン組織のCEO、VPなどが多い)
・デザインマネージャー/デザインディレクター(中間管理職のヒーロー)
・クリエイティブディレクター(クリエイティブに責任を持ちマネジメントは負わない)
・デザインプログラムマネジメント・ディレクター(マネジメントを推進する立場)

こんなにあるのか...。デザイン業界以外の人、違い分かるのだろうか?
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