組織の強さ=体系化された実践知:リクルートのすごい構"創"力
公開日: 2018年7月27日金曜日 クリエイティブ ビジネス マーケティング メソッド
多くの会社で新規事業企画の取組みを目にしたり耳にしたりすることは、10年前や20年前に比べて特別めずらしいことではなくなったけど、それをずっと前から、新しい事業をつくる数少ない会社として実践してきたのがリクルートという会社だと思います。本書はそのリクルートが、新しい事業企画をつぎつぎと生み出す企業ノウハウを紹介している内容で、ある経済学の先生がおススメしていたので読みました。
リクルートのすごい構"創"力
杉田浩章
日本経済新聞出版社 2017.05
杉田浩章
日本経済新聞出版社 2017.05
こういった本の多くはOB/OGの人が書いた内容であることが多いけど、この本は著者がリクルート出身ではない人だというのがちょっと変わっています。記者とも違う外部の人が企業ノウハウを紹介するのはなんか不思議な感じですが(きっとビジネスを通じて関わっているのだとは思うけど、ここまで他社のことを深く知れる会社ってあまり聞いたことがない)、いい意味で第三者的な視点で紹介されている内容だと思います。
なぜリクルートは次々と新しい事業を生み出しているか?という問いに対しては、決して一部の天才がやっているのではなく、会社の手法や企業文化として確立できていることが強みであり理由、というのが本書の中で著者が主張している内容です。デザイン組織でも同じことがいえますが、組織がある程度大きくなっていくと属人化されたスキルに依存するのは品質水準の維持や継続性の面でリスクが高くなります。新しい何かの取組みに関わる人の一部にはこうした仕組みや手法を嫌う人も少なからずいますが、組織の活動として取り組むためには、リクルートが持っているような体系化された知見が欠かせません。
本書では、新規事業の取組みでよく使われる、0→1の新しいアイデアや構想をつくるプロセスと、1→10の具体的にしていくプロセスの前半と後半の3つに対して、計9つのメソッド的(あるいは考え方)を紹介しています。そしてその基盤になっているのは『リボンモデル』と呼ばれるものだということです。
リボンモデルは、左側にカスタマー(お客様)と右側にクライアント(事業側)を置いて、その間をつなげるために、集める・動かす・結ぶ、という段階を設けています。ちなみに手前味噌ですが、僕もよくこれに似た図を用いることがあります。両端に位置するユーザーとビジネスの間をつなげるのがデザイナーの役割であり、特にユーザー起点から考えたアイデアをビジネス側につなげるためにはデザインストラテジーの視点が欠かせないと考えています。ある意味この図は当たり前のことを示しているけど、このくらい基本的なことが企業文化として浸透できているかどうかの差はかなり大きいと思います。なぜなら僕自身は同じ職場や近い同僚の人と話していてもベースとなる考えがまったく違う状況によく出会うので。きっとこれは僕だけでなく多くの会社で起こっていることだと思います。
そして9つのメソッド的な紹介がありますが、全体を通して印象的だったのは、どうやって斬新なアイデアを発想するか?といったようなクリエイティブよりの内容ではなく、アイデアを実現化するためにどうやって社内の理解や協力者を得るかや、ビジネスとしてスケールさせていくために何をすべきか、といったことが割合として多く、一般的に思い描く新規事業企画で大事にすることのウェイトバランスが違っていることです。こういった新規事業企画に関わっていると痛感することですが、実際にはアイデアそのものよりも実現化するためのハードルの方が何倍も難しいと思われる状況が多いので、特にデザイナーやクリエイティブに関わる人にとっては、新しい視点が多く得られる本だと思います。
新規事業企画というと、はじめは「とにかく自由に新しいことを楽しく考えていこう」という雰囲気で始まりますが、3か月後には周囲からのプレッシャーや懐疑的な目がだんだんと表れてきて、6が月後にはダメ出しの声が聞こえるようになり、9が月後には内部を意識したつじつま合わせに画策し、1年後にはプロジェクトを自然的に収束させていく、というような状況は珍しくないと思います(ちょっとネガティブすぎるかもですが)。その多くの原因は、やり方を個人任せにしていることにあるからだと思います。はじめて取り組むことなので手探りな状況は当然ですが、そんな中でも先行き不安にならず立ち位置を見失わないためにも、このようなノウハウを企業内の共通見解として持っておくことは本当に大事です。
本当に強い企業は、体系化された知見やノウハウが全社員にいきわたっているもの、だという風に思いました。いま世の中で注目されている会社の多くは何となくそんなものを身にまとっているような気がしませんか?