リープフロッグとグローバルがある国:インド・シフト
公開日: 2018年7月29日日曜日 ソーシャル テクノロジー ビジネス
今年のDesign in Tech Report in 2018の中に(今年はTakramが日本語訳してくれています、ありがたいです)、中国だけでなくインドやブラジルにもデザイン・ビジネス・テクノロジーに対して大きな変化が起こっているということが紹介されています。中国は地理的にも近く、製造業が盛んということで日本と類似点が多いことに対して、インドは文化的にも日本とは大きく違うし主力がIT産業なので具体的なイメージが描きにくく、何となくそうなんだろうなと思う一方でピンとこないのが正直なところです。
ちなみに僕のはじめての海外旅行はインドですが、行ったのは2000年でこのときはいわゆるバックパッカー的な旅行だったので、典型的な異文化のインドに触れることはあってもビジネスとの接点は無縁でしたし、18年もたっていると全然違うんだと思います。(日本だって高度経済成長で10年で様変わりしたので)そこで今のインドを知るために本を探してみたところ、これだという本のタイトルに出会いました。
インド・シフト 世界のトップ企業はなぜ「バンガロール」に拠点を置くのか
武鎚行雄
PHP研究所 2018.03
武鎚行雄
PHP研究所 2018.03
この本は「インドが新しい市場先として注目されている」という内容ではありません。そうではなく「インドが世界の中心として経済を動かす場所になってきている」ということを知る本です。具体的にはバンガロールというインド南部のある地域がポスト・シリコンバレーのような位置づけとなり、優秀なエンジニアや研究機関が集まり新興スタートアップ企業が次々と生まれている、という内容です。
ここではなぜバンガロールが注目を集めているか2つの視点を紹介します。
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1. ITと英語と人件費
いま有名なグローバル企業で多くのCEOがインド人です。Microsoft、Google、Nokia、Adobeなど。これってすごいことで、日本人に置きかえて考えてみるとよくわかります。インドはもともと数学やITに長けているといわれていますが(それがなぜなのかは僕はよくわかりませんが)ITやデジタルに関わる企業でインド人が活躍しており、その多くはエンジニア出身です。IT産業の発展のなかでインドが活躍する場が増えていった関係性は間違いなくあると思いますが、ただITが得意というわけではなく下記3つが特にポイントだと思われます。
・英語ができる=海外と仕事ができる+最新の技術論文をすぐに知れる
・高度IT人材を多く抱える=中国との住み分けができている
・人件費が先進国より安い=はじめはオフショア拠点から徐々に上流工程まで関与
・高度IT人材を多く抱える=中国との住み分けができている
・人件費が先進国より安い=はじめはオフショア拠点から徐々に上流工程まで関与
個人的には特に、英語で最新の論文や情報が把握できる→世界で先駆けた取組みが行える、というのが強い影響力を持っているのではないかと思います。日本だとよく英語の情報が2-3年遅れで浸透してくるタイムラグを感じることありますが、その間にインドは世界標準でどんどん動いている、そして先進国よりも人件費と人材数が優位だから実行のスピードがより速い、この差は大きいと思います。
2.リバース・イノベーションとリープ・フロッグ
一方でインドは先進国に比べると、インフラ面での不備や多くの社会課題が山積しています。ですが20世紀の経済発展プロセスとは違ったITを駆使したアプローチが、インドだからこそできるという独自の進化を体験・実践しています。それを象徴するキーワードがリープフロッグとリバースイノベーションです。
リバース・イノベーションとは新興国から起こる逆アプローチ型のイノベーションです。先進国の製品やサービスは新興国にとって高価で手が出せなかったり現地の過酷な環境に向かなかったりする状況に対して、大幅に安価で簡易的に使えるものを生み出し、結果それが新興国だけでなく先進国にも普及していくような流れです。本書の中ではインドの医療サービスを取り上げていて、高度な外科手術をアメリカでは考えられない安価で提供しつつも、安全性や技術面でもむしろ優れている医療機関があるということです。タタモーターズは今のところ先進国の普及にまでは至っていませんが、アプローチとしては近いものがあると思います。
リープ・フロッグ(Leap Frog)とは直訳するとカエルが跳ぶことですが、技術分野でこの言葉はこれまでの技術発展のプロセスを飛ばしていく現象のことを意味します。家の電気や固定電話よりも携帯電話の方が先に普及してしまうなど。それによって先進国を先駆けるサービスや社会課題の解決ができたりします。例えばインドの識字率は高くありませんが、選挙で電子投票システムを活用することによって、投票率に加えて透明性も高められるという結果を生み出しています。日本は識字率は100%に近いですが全く電子投票が実現できる気配はないことからも、こういった逆転現象は今後もたくさん起こってくると思われます。国民IDなどもそうですね。
2020年にバンガロールはシリコンバレーを追い抜くスタートアップの拠点になるといわれています。日本では最新の動向というとどうしてもシリコンバレーなどに目が行きがちですが、フラットな視点で捉えてみると、インドにはより多くの可能性を秘めています。それは技術力でだけでなく新興国ならではの社会環境があげられます。ですが一方でグローバルのスピード感で動いていくために英語でやりとりできることは不可欠といえます。僕のなかではこの本を読んで、アジア・英語・社会課題に対しての関心が高まりました。もう一度インドに行ってみたいな。(でも実はシンガポールにも関心あります)