編集とは統合でアート:新エディターシップ

公開日: 2018年8月25日土曜日 コミュニケーション メソッド

「編集する」という言葉が割と好きです。編集というと雑誌など書籍のイメージが強いですが、いろんな分野にこの考え方を当てはめてみると面白いです。

例えばR不動産で活躍している建築家の馬場さんは「建築を編集する」という捉え方で建物を扱っているように思います(確か昔に話を聞いたとき、本人が編集という言葉を使っていたような記憶があったので)。既存の建物をどう生かすかという視点でリノベーションを日本に浸透させて、今は公共の建築や空間にも編集の幅を広げています。そういえば馬場さんはもともと雑誌の編集長もしていたので、そのときにこういった視点が備わったのかもしれません。

ということを思って、デザイナー仲間と「編集っていいよね」という話していたところ、この本を紹介してもらいました。オリジナルは1975年と古い内容ですが、読んでむしろ今の時代、何かを創作する人は知っておきたい考え方だなと思いました。その理由を以下にまとめます。



新エディターシップ
外山滋比古
みすず書房 2009.05

本書は、細かい章が10+あり、読んでいくうちにだんだん文脈やストーリーがつながっていく、という社会学や哲学などに多いタイプの構成です(僕が苦手なタイプ)。ですが、難解な言葉づかいはしていないので、割と好奇心のおもむくままに読み進めることができる内容でした。読み終えてから「あそこはそういう意味だったんだ」ということに気づき何回か読み返ししましたが、2回目以降はただ読むよりもメモを取りながら読む方が、早く深く理解できるなと実感しました。読書×グラレコは改めておススメですよ。

で本題ですが、3つほど「なるほど」と思ったことについて紹介します。


編集とはつなぐ第三者的な存在(ミドルマン)

個と個の間をつなぐ職業としては、編集者のほかにも通訳者・外交官・仲介人・交渉人などがあげられますが、これらの職業はただ右から左に渡すだけではないことが重要です。例えば翻訳であれば、英語と日本語のニュアンスや文化的理解は異なるから、直訳では表せない伝え方が求められます。前にテレビで、第一線で活躍している翻訳者のドキュメンタリーを観ましたが、その人は福島の「ふるさと」を英語に訳すときにすごく悩んだ結果、通訳のときは「帰る場所としての美しい私たちのまち」というような言葉をあえて使っていて、これがプロの編集なんだと感動しました。

この本ではこのような編集を、もとの意味を真摯に理解しながらも判断力をもって伝えるために組み立てる、というように説明しており、ただ整理をするだけではない、ということがよくわかります。


分析はサイエンス、統合はアート

分析とは分けること、つまり複雑な要素を一度整理して点の状態にすること。それに対して統合とは点と点をつないで線にすること、ということです。例えばバラバラの記憶を組み合わせることによって昔の思い出がエピソードとしてよみがえるといったものです。なので、編集とは一度分析をしつつも、最終的にはそれを「統合すること」です。

この本を通じて僕が一番ハッとしたことはこの「統合」という言葉です。多くのビジネスパーソンの手法は分析的なアプローチは得意でも、統合のアプローチが苦手という人は多いと思います。なぜなら統合はセオリーや万能なロジックはないから。僕が何かを提案するときにも理解してもらえないことがあるときは、この統合のアプローチが理解できないということなんだと思いました。なので統合がアートという考え方は納得ですし、編集とはとてもクリエイティブさが求められるスキルであるということにもつながりました。


二次的創造なのが編集

編集とは0からつくるのではなく、ある素材を使って組み立てていく作業です。なのでファインアートとは少し違うのでしょうが、メディアアートは編集的な要素が多分に含まれているのではないでしょうか。他にも二次創作の同人誌や、プラットフォームを活用したウェブサービスなど、ある素材をつかってつくられているものが多くあります。古くは音楽の世界で作曲家の楽曲をもとに演奏や指揮で二次創作していきますが、2000年以降さらに二次創作や三次創作の活動領域が広がっています。

なので、これから創作活動に関わる人は一次創作だけにこだわるのではなく、二次や三次でできることの価値に目をむけるべきだし、そこで大事になってくるのが編集という考え方なのだと思います。(いまの若い人は自然にそれを理解しているような気がしています)




という目から鱗の内容でした。僕にとってはデザインストラテジーをテーマに、分析だけではなく統合することがカギとなるので、例えば「ビジネスモデルを編集する」「需要と供給を編集する」といったような視点で考えていくと、対象となる事業や分野に新しいストーリーや意味性がつくられていくのではないかな、ということを気づかせてくれる本でした。
  • ?±??G???g???[?d????u?b?N?}?[?N???A