関係性だってリノベーションできる:公共R不動産

公開日: 2018年8月26日日曜日 コミュニケーション デザイン 建築

リノベーションを日本に広めた東京R不動産ですが、R不動産や中心人物の馬場さんの取組みはかなり以前から関心持っています。20世紀が表現の場として0から建てていくスタイルだったとすると、あるものを活かして再生をしていくR不動産のアプローチは21世紀を代表する建築集団だと僕は思っています。

で、そんなR不動産が、こんどは住宅物件だけでなく公共空間にも広げていきました。これは読むしかないでしょう。



公共R不動産
馬場 正尊、飯石 藍、菊地 マリエ、松田 東子、加藤 優一、塩津 友理、清水 襟子、公共R不動産
学芸出版社 2018.06

実はこの本の前にも公共をテーマにした『RePUBLIC』という本が出ています。そういえば当時、馬場さんの話を聞きにイベントに行ったのですが、確かテーマが団地を再生するという内容で、既に公共のほうに目が向いていたのでしょう。その時はまだ構想や考え方を伝える内容に近い位置づけだったけど、それから5年ほど経って今回は具体的な実践例やそれを通して得た治験や提言も交えた内容になっているので納得性の高い内容になっています。

公共は行政が対象になりステークホルダーも複雑になるので、民間住宅より時間がかかるからそんな一足飛びには普及しないけれど、これが一般的な認知にまでなっていったとしたら本当にすごいことだと思いますが、すべてはこの本から始まるのかもしれません。

公共空間を使ったりひらいた場にしていくためには、7つのアプローチが実践を通じて見えてきたということがまとめられています。実際にある実例と合わせてそれぞれ紹介します。


社会実験として使う

いきなり用途をガッチリ決めるのではなく、まず例外的に一定期間だけとか、イベントとしてとか、テスト的な使い方からはじめることで市民の理解を得てムーブメントをつくったり働きかけができるという視点。世界一有名な場所のニューヨークのタイムズスクエア前も、実ははじめはそんなところから始めて結果が出てきた流れをうけて恒久化に入っていったとのことです。なるほど、徐々に浸透させていくの視点はかしこいですね。


暫定利用

いきなりしっかりした建物をつくるのはハードルが高いので、お金をかけ過ぎず簡易的なハコをつくるという考え方です。青山にあるCommune 2ndはタイヤのついた屋台を並べることでレストラン空間を構成、撤去するときは押して転がしていけばいいという簡易さが、とりあえずやってみようかという入り口の入りやすさを促します。完璧につくるのではなく、最小の構成で柔軟な空間にしていくという考えも、時代を表しているような気がします。


サウンディング

やや聞きなれない言葉ですが、調べてみると「意向を聞く」「対話する」という公共分野で使われる用語のようで、要は一方的につくって終わりではなく、双方向のやりとりで成長させていくという考え方です。前に紹介した横浜DeNAベイスターズでは横浜市と連携して古い建物を借りて、野球を通じて市民とのつながりが持てる場を持っていて、運営しながら声を聞いて公共空間のあり方を一緒に考えていくという取組みをしています。その結果は別の記事でも書いた通り、市民のための場として有意義に使われている模様です。


民間貸付

公共が所有しているものを企業や団体の民間に使ってもらうという、理解度が1つ先に進んだ状態での使われ方です。浜松ワインセラーでは、道路として使われていたトンネルを活用したワインセラーがあるらしく(!)これは素敵な使い方だと思いました。他にも泊まれる公園もあるようです。公共は開かれた場なので、こういった用途が一企業の営利のためだけにあるのではなく、そこで暮らす人やより多くの人に向けたものであると公共空間としての意義が生まれてきます。


オープンプロセス

サウンディングとも関連性の強い内容ですが、公共空間をどうしていくかを市民と対話していく過程も公共的に開かれた場にしていく必要があります。デンマークにあるスーパーキーレンという長く大きな道路にできた公園は建築事務所のBIGが市民とのヒアリングを通じてつくった場として、世界中から強い関心を集めています。ちなみにBIGの代表BjarkeさんはOMA出身の建築家、アーティストではなくリサーチャーやエディターとしての建築アプローチが特徴です。(BIGはBjarke Ingels Groupの略だそうですが、ウェブサイトを見てみたらアイコンが漢字の『大』だった)。ここはニューヨークのハイラインや南池袋公園なども当てはまります。


新しい公民連携

東京都立川市にある子ども未来センターは、別名まんが図書館として多くの子どもが来る場になっています。僕も一度だけ家族で用事があって、そのとき中には入らなかったのですが入り口まで見たことがあります。ここは建物だけでなく大きな芝生やベランダもあって、子どもの居場所がどんどん少なくなっていくといわれる昨今、子どもの憩いの場として機能していることを実感しました。これを決断した立川市はえらい。


パブリックシップ

最後は公共を自分事にするというマインドへの働きかけです。氷見市や西予市では市役所は開かれた場として、多くの人が出入りして職員と対等に話し合えるような場づくりを産官学連携で実現したそうです。西予市役所では学校の体育館を使っているようで、これは働く職員も意識が自ずと変わってきそうですね。海外では教会を市民同士が語り合えるコミュニティセンターとして利用しているようで、本来持っている教会の役割を現代の文脈のなかで再定義したといえる取組みです。



という7つでした。

よく公共空間って、もっとこうなればいいのにと思うことはあっても、簡単には変えられないものだから自分の中では縁が遠いと思っていたのですが、世の中にはこんなに素晴らしい事例がいくつもあり、R不動産ではそれを自らが踏台となって実践しているのを知って、東京R不動産を知ったときと同じような衝撃を受けました。

まだまだ活かしきれていない可能性のある建物や空間はたくさんあると思っていますし、一方でR不動産が見ているのはフィジカルな建物や場だけではなく、人や地域など関係性を編集してリノベーションしていく、ということなんじゃないでしょうか。それをこれからもR不動産がどんどん切り開いていくかと思うと、ワクワクが止まりませんね。
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