NPOの活動にこそUXを:20円で世界をつなぐ仕事

公開日: 2018年8月30日木曜日 コミュニケーション ソーシャル ビジネス

TABLE FOR TWO(テーブル・フォー・ツー)を知っていますか?テレビなどのメディアで取り上げられることも多く、企業や学生食堂で目にしたことのある人もいるかもしれません。ここで紹介する2冊の本には、日本発の国内外に広まったスケールの大きなNPOの取組みと、このような活動を運営して実現していくために大切となる視点やヒントが紹介されています。



20円で世界をつなぐ仕事
小暮真久
日本能率協会マネジメントセンター 2009.03

社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた
小暮真久
ダイヤモンド社 2012.10

TABLE FOR TWOが何かをひとことで言うと、先進国で食べる一食のうち20円分を栄養が行き届いていない途上国の給食に寄付する仕組みです。先進国ではこの活動に賛同した社員食堂や学生食堂などがヘルシーメニューを提供しており、それを食べる人は寄付をするとともに自身の肥満や生活習慣病などに抑制も役立ちます。そして途上国では20円によって栄養豊富な給食の一食分が提供できるようになります。つまり20円で先進国と途上国の社会課題を同時に改善できる画期的な仕組みです。メモ書きにある1つのテーブルで2人をつなぐ、という考えの絵がこの活動を象徴的に表しています。

ちなみに補足しますと、20円にはNPOの運営費も含まれていますが、これは活動を継続していくうえで当然のことです。よくNPOやボランティアの活動に対して、集めたお金の一部を運営費にあてることに対して批判のコメントがネット上で出ているのを見かけますが、これはまったくの見当違いの主張です。NPOであっても活動していくうえでの運営費は当然必要ですし、営利団体ではなくても活動を継続させていくためには正当な対価が支払われるべきです。僕はCSVの本や知人との会話通じてこのことを知りましたが、NPOに関わっている人がよく誤解をうけるという声を聞いたことがあるので、ここで伝えておきたいと思います。



僕がこの仕組みを特にすごいと思ったのは、社会貢献するキッカケの入りやすさをうまく仕組みに取り入れている、UXがすばらしい設計であることです。高額の寄付はためらいがちになりますし、少額であっても日常的に寄付や募金をする機会は少なく、寄付したお金がどう使われているのかが分かりにくいです。それを毎日行う食事の行為の中に取り入れて、かつ同じ「食」をつなげることによって、自分の行為が具体的に届けられていることを実感できるようになります。

この活動を知り、それをデザインストラテジー的に解釈すると、社会的な活動への賛同が得られるかどうかは次の3つが大事になってくるのではないかと思いました。

・入りやすさ:敷居が低くオープンで日常的に接することができる機会の提供
・具体的:1人の人がどう恩恵を受けられるかが具体的な金額や提供品で示す
・前向き:暗い現実を見せるのではなく常に明るい未来を示す

少し近い事例として、NPOではありませんがTOMSという靴メーカーは、1足TOMSの靴を購入するともう1足をアフリカの人に届けるというビジネスを展開しており、若い世代を中心に共感を呼んでいるブランドです。この取組みも、入りやすさ=靴を買うことで貢献できる、具体的=アフリカの誰かが靴を履いてもらえる、前向き=それによって社会が良くなる、という共通点があります。他にもペットボトルの1L for 10Lキャンペーンなどがあり、ビジネスの分野ではこれを、コーズマーケティング(購入や寄付によって社会貢献を提供する仕組み)といいます。

実際によい活動をしていても、伝え方が適切ではなかったり参加者とのタッチポイントの障壁を下げられなかったりしたことでうまくいかない例は多くあると思います。ここにユーザーを起点として捉えて、どうすれば参加者に関心を持ってもらえるか?ということを考えることがブレイクスルーのキッカケになり、そこにデザイナーやストラテジストが貢献できることは多くあると思います。UXアプローチやコピーライティング、印象に残るグラフィックやプロモーション施策など。

ほかにも、本書はNPOの活動を継続し展開していくために、運営側の心がけや体制についてのノウハウを惜しみなく紹介しています。5つのPやCで説明しているのは著者が元コンサルタント出身だからということですが、企業であってもNPOであっても共通する点は多く、どちらも共に社会に認められる活動をしていくことであり、その活動を継続し発展させていくためには市場や経済性との両立も意識しなければいけません。

いま企業とNPO、あるいは社会性と経済性は、どちらも密接に交わってきていて白黒と区別をすることできません。両方を考えていくためにお互いに学びあう必要がある、そんなことを気づかせてくれた本です。


このTABLE FOR TWOも、ビジネスモデル図解のなかで取り上げさせていただいた1つですので、ここに紹介しておきます。
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