日本のマンガはなぜ独特なのか:マンガで描くということ

公開日: 2018年9月23日日曜日 クリエイティブ ヒト メソッド

数年前はマンガ熱が高まって自分で描いたりしていたのですが最近はめっきりなので、気持ちを思い返すためにも、女性漫画家の里中満智子さんのセミナーに参加してきました。実は里中先生のマンガをこれまで読んだことはなく(スミマセン!)事前知識なしの状態で参加したのですが、お話しを聞いて、改めて漫画の世界って奥が深いと思いました。

マンガで描くということ ~構造の着眼点、そして覚悟
里中満智子

はじめに日本と海外の漫画の比較から話がはじまりました。日本の漫画が世界のなかで独特のスタイルをつくりあげてきたのは何となく感じていますが、そもそも海外の漫画ってどういう成り立ちになっているのかはほとんどの日本の人は知らないと思います。簡単に書くと、

・海外の漫画:絵がうまい人が分業して描く
・日本の漫画:何かを表現したい1人が自分で描く

アニメや映画の制作をイメージすると分かりやすいのですが、海外の漫画家は自己紹介するとき「私は〇〇のキャラクターを〇年から〇年まで担当した」というらしく、組織でつくり上げる分業=替えが効く体制でつくっている、ビジネスよりのスタイルです。なのでバットマンのように何年も続けられるけど作者オリジナルの世界観はそこには見えてきにくいということです。

対して日本に漫画はよりアートよりです。作者がいなくなったら続かないけど(連載アニメは分業スタイルなので別)、そこには強いメッセージや表現したいことがあります。日本ではこれが当たり前だと思っているけど、海外から見ると独特の世界だということです。知りませんでした。

なので、日本の漫画では絵が上手いことは必ずしも全てではなく、脚本やネームが一番大事だというのが、里中先生の考え方です。絵は極端な話伝わればいい。マンガの神様・手塚治虫は絵が天才的にうまいことはもちろんだけど、それ以上に世界観(テーマや表現)の革新を打ち出してきたことが、日本の漫画界をいまの水準につながっています。鉄腕アトム、リボンの騎士、火の鳥、ブラックジャック、アドルフに次ぐ...どれもテーマはとても複雑で、心の葛藤や倫理観に踏み込み考えさせられるものばかりです。

そういったマンガ家達の表現の挑戦が、次の世代につながり進化をとげていき、今日の文化ができあがった。そしてその間、諸外国のグローバルスタンダードにはあまり目を向けず、現場の積み重ねでできあがってきた。ここに日本のマンガの独特さとすばらしさがあります。何でも世界に合わせればよいのではなく、目の前にあるいいと思ったものに信念をもって、自らが手を動かしてつくっていく大切さを、マンガから学ぶことができます。

話はそれますが、個人と分業化について思うことがあります。デザインの世界でも分業化についての流れは海外では多く見られます。例えばこのブログでテーマにしているデザインストラテジーも、欧米圏では機能の一部といて捉えられ、いろんな職能の人がプロジェクトごとに編成される(替えがきく)体制になっています。対して日本はそこまで分業化された組織にはなってないので、属人的なスキル要素が強く出る傾向があると思います。

ビジネス要素が求められる点とアート要素が求められる点がデザインにはそれぞれありますが、この2つがゴチャゴチャにしていると混乱のもとになり、日本でそういった状況が最近はいろいろ見られると感じています。アートの要素を実行するためにビジネスの分業的アプローチで実行するという融合的な印象を受け、個人的にはこれはあまりうまく機能しないのではないと思っています。




話を戻しますが、そういった漫画の成り立ちから、表現を考えるうえで大切になる印象的だった話が2つありました。

作者の表現をとめる権利は誰にもない

里中先生は他の漫画家の表現に対して批判はしないし、自身の作品がテレビドラマやアニメになったとしても決して口を差し込むことはしないということです。なぜならば漫画は自分の表現を核として進化してきた(表現の追求によって次の世代が新しい表現を生み出しあらゆるジャンルがつくられてきた)ので、表現者の意思を尊重することが一番大事だと考えているからです。

歴史の理解は大切

里中先生は海外ともよく交流があるそうなのですが、漫画の成り立ちについてもそうだし、それ以前に文化圏の異なる人に対して価値観や思考を知ることは、英語が話せることよりも根本的なコミュニケーションスキルとして大切だと言っていました。そこで歴史を知ること、それを漫画で学ぶことた(一部宣伝)をおススメしていました。特に旧約聖書やギリシア神話を読むことは、欧米(キリスト教)やアラブ(ユダヤ教・イスラム教)などの根本的な思想に通じるので、基礎教養として大切であるということです。

特に僕は西洋のルーツのことはあまり知らないし、日本の歴史も飛鳥時代とか日本神話などまでさかのぼった内容には疎いので、これを機会に里中先生の漫画を読んでみようかなと思います。里中先生の漫画は歴史を題材にしたテーマが多く、資料で調査をしながら歴史マニアから厳しい指摘を受けないよう(この位置に柱はないとか、この年月日の月のカタチは違うとか)微に神が宿る細かいことに目を配らせながらも、自分なりの解釈や世界観をもって歴史を物語にしている名作揃いといわれています。

面白い話を聞けて、気持ちも高まりました。いってよかった。
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