社会の空気を読む力:フリーエージェント時代の到来・新装版

公開日: 2018年12月1日土曜日 ビジネス メソッド リサーチ

この本は初版が2002年なので内容としてはかなり昔になるのですが、新装版で手を加えていたとしても(どのくらい変わったかは読み比べてないので分かりませんが)2018年に読んでもほとんど遜色ない内容で、当時の視点がどれだけすごいかということを裏付けています。なので、ここでは内容よりも、社会の動きを捉える分析の鋭さと思考プロセスに焦点を当てて感想を書きます。



フリーエージェント時代の到来・新装版
ダニエル・ピンク(著) 池村千秋(訳)
ダイヤモンド社 2014.08

まず始めに本のおさらいを。上に書いた通り初版は2002年で大ベストセラーとなり、2014年に新装版として読み継がれている名著です。著者のダニエルピンクは他にも、ハイコンセプト(2006年)、モチベーション3.0(2015年)などに加え、最近はWHEN~完璧なタイミングを科学するという興味深い本も出している人です。

そしてこの本は、会社員としてではなく自立した個人としての働き方の時代がこれからはもっと増えてくる(=フリーエージェント)ということをテーマに掘り下げた本です。当時はインターネットが多くの人に使われはじめるようになってきた頃で、GoogleもSNSもないしiPhoneもありませんでしたが、これまでとは明らかにはたらき方も変わり始める気配が見え隠れしてきた時代でもありました。とはいえ、ITの進化だけが要因ではなく、多角的な視点から分析を重ね考察をあげているところが、本書で注目すべき点です。


構成の全体像を目次から見て整理してみると

1. 変化の現象:フリーエージェント時代の幕開け
2. 影響:
 A. 新たな働き方の常識が生まれる
 B. 組織に縛られない生き方を選ぶ人が登場する
 C. 妨げとなる制度や習慣はどうなるか
3. 考察:未来の社会はこう変わる

というように大きく3つで組まれています。目次では7章でパッと見は並列的に見えるのですが、構造的に捉えて読んでいくと上のような関係性が見えてきました。まず1では現在の特徴的な事象から何か変わってきているのかを捉え、それが世の中にどういった影響を及ぼすかということを2の中で大きく3つのカテゴリから取り上げています。そして3で今はまだないけど今後変わっていくと思われる事象をいくつか取り上げて、それに適応していくためのアドバイスなどを最後に紹介している、というような流れです。

とても段階を意識している構成なので、読者は入りやすく自然に読み進んでいくストーリーになっています。でもこの本は小説ではなく、どちらかというと分析レポートといった方が近い内容のものです。なので、この構成の組み立て方は実際のビジネスのレポートや、リサーチを分析するときのまとめとしても参考になる内容だといえるでしょう。


次に個々の事象に対する分析の仕方についても注目してみますと、例えば1のフリーエージェントの波が来る理由を次の4つにまとめています。

1. 個人と組織の関係の変化:レイオフの広がりで企業は社員を保証しなくなってきた
2. テクノロジーの変化:ITの発展に伴い小型で安価になり、資本の重要性が下がってきた
3. 中流層の生活水準の繁栄:食うために働くから、やりがいを求めるようになってきた
4. 組織の短命化と職種の寿命の縮まり:時代の変化が早まり先が見通しにくくなってきた

この4つはマクロ分析の代表的なPEST分析(政治・経済・社会・技術)の要素を複合的に包括した内容になっており、1つ1つの事象も象徴的なニュースと統計的な数値の両視点から捉えていて、見解の導き方がすごいなと思いました。

例えばテクノロジーの項目を例にあげると、僕なんかが安易に考えると「ITが普及して場所を問わず働けるようになった」という見解を出しそうですが、そうではなくここで経済と結び付けている点が鋭いと思うところです。昔は機械の設備が会社の資本を示す目安でもありましたが、ITによって機械の初期投資が少なくても事業が始められる、つまり大企業でなくても事業参入できるようになった(=だから個人の活躍の機会が増えてくる)というのが著者の見立てです。この見方の違いは大きいです。

このような分析を経て大きな見解としては、保険や税金などの保障はまだまだ制度が追いついておらず厳しい面もあるが、新しい働き方や周辺の環境が整い始めることでフリーエージェントの価値観は広がっていくだろう、そして将来は定年のあり方や教育にも大きな変化を起こし、キャリア形成の組み方やコミュニティの発展や女性の活躍が増えてくるだろう、と述べています。そして現在、まったくその通りだと思います。本当すごい分析です。



この本はある意味で、新しい事業企画をはじめるときやデザインリサーチをするときに、世の中をどう捉えて精度の高い仮説をつくることができるか、ということに関して大変参考になる本です。著者はもともと政治家の補佐官やスピーチライターをやっていたこともあるので、数値だけでない世の中の空気を感じながらも、憶測ではなく根拠をもとにしたストーリーを組み立てるプロ中のプロです。この本が名著といわれる理由はこんなところにもあるのではないかと思います。

この本は何回も読み直しました。きっちり端から端まで読むのではなく、全体像をつかむためのパラパラ前後を行き来したり飛ばし読みをしながら、目次の位置づけや構成を理解しようということに意識を注ぎました。そのおかげで最近、本の全体像を読み解く力が少しついてきたような気がします。
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